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外野から「北さま、かっこいい~」って言ってた頃が一番よかったな…昼食の後、そんなことを思いながら、歯磨きと化粧直しをすませて財務部のフロアに戻った。
わたしの教育係の下田さんもちょうど戻ってきたところだったけれど、財務部のフロアはまだ閑散としている。
下田さんは北川さんと同じ28歳だけど、短大卒のため入社年次は北川さんより2年上で、北川さんのことをいつも「北川くん」と親し気に呼んでいる。
それに対して、年次が下の北川さんは同い年でも下田さんに敬語で接している。
「ねえ、いつも北川くんと残業して何してるの?」
「何って…残業ですけど?」
下田さんは北川さんに好意を寄せている。それは、彼女の態度を見ればすぐにわかった。
「北川くんって、決算期以外はなるべく残業しない主義なのよ。『ダラダラ残業しても効率悪いだけ』ってね。なのに、三浦さんにつきっきりで毎日残ってるでしょう?ちょっと気になっちゃって」
はいはい、北川さんとわたしがふたりっきりで残っているのが羨ましいんでしょ?
あわよくば自分がその立場になって、そのあと一緒に食事とか、あるいはふたりっきりのオフィスでエロいムードになるのを期待してるとか!?
あーやだやだ!
「なんか下田さん、おかしな想像してません?このデータ入力が終わらなくて、ひたすらキーボードにかじりついているだけですからね?残業の後は一緒に駅までは行きますけど、そこで『おつかれさま』で解散ですから」
わたしは束で置いてある書類をペシペシ叩きながら言った。
毎朝、北川さんが『今日中にこのデータ入力お願いね』と言ってわたしの机にドサっと置いていくやつだ。
「おかしな想像なんてしてないわよ、あはは」
焦って否定する下田さんにひとつ提案しておいた。
「気になるなら、わたしたちの残業の様子を隠れて見てくださってもいいですよ?ホント何もないですから」
ただし、家まで送ってもらったことがある件に関してはナイショだ。
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