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そんな対極した二つの組には、常盤組の会長である桔平と、獅子王組の会長である龍司は、今でも会食をする程の親交がある同級生ということ、若頭の仁作と剛も同級生だ。そういうこともあり、二つの組は干渉することなくやってきている。
鴬が剛を毛嫌いしても抗争問題に発展しないのは、会長同士の親交に因るところが大きい。
剛は鴬を一瞥して、「仁作、俺はお前がトップに上がってくることは何となく予想してた」と悉くスルーする。
「……っ」
鴬は眉間に皺を寄せて、苛立ちを耐える。自分のシマで事を荒立てることは避けなければならない。その上、相手は獅子王組とあれば、此処が殺戮の戦場と化すことが目に見えている。相手が野蛮人なだけに、こちらは慎重にならざるを得ない。
「あ。俺ちょっとトイレ」
「おい、俺の褒め言葉をスルーしたな?!」
「悪い、家出る前から我慢してたの忘れてたんだよ」仁作はタイミングが悪いところでトイレに立ち上がる。
無論、マリアナ海溝レベルで溝のある二人に、余計な言葉を交わす戯れはない。
「——……鴬。テメェ、ちょっと見ねぇうちに、また生意気になりやがったな」
「何のこと? 僕、これでも本部長になったんで、生意気どころか偉くなったんですよ」
「ほぉー……偉くなっても器の小ささは小さい頃のままやなぁ」
座るキャバ嬢を跨いで、鴬の真隣に陣取って耳打ちをする。
仄暗く沈むような声が直接耳に届く。「知ってるおぞぉ。見てたぞぉ。さっき、仁作に群がる女共の横入りしてたのー」
ニタニタとした笑い方に気味が悪いと思いつつ、あからさまに嫌悪の念を出す。昔から苦手意識を持っているのは結局のところ、剛が鴬を見透かしているからに他ならない。
「お前、まだまだ小童だな。仁作に早く追いつこうとして、生き急いでやがる」
「……七年の差はどう足掻いても追いつけないんだから、急いで当然でしょ」
「ったく。それだけとは思えんが」
「——っ、だって、僕が若頭になるとばっかり思ってたので」
鴬はキャバ嬢の相手をしてるかのように猫を被って、上目遣いを発揮させる。「剛さんのように、楽して? なれると思ってたんですけど……ウチもこういう時は、実力主義をかざしてくるんですよねー。もう、困っちゃう!」とぱちん、片目を瞑る。
「へぇー! お前、跡継ぎたかったんかいな。こりゃ驚いた! 噂じゃ勉強に没頭してるから、もしかしてカタギになりたいんちゃうかって言われとったぞ。——大学は進学するんだろ?」
見上げる鴬を見下ろす剛の目は、いつだって冷ややかだ。
「大学に行ってる暇なんてないですよー。若に追いつかなきゃだし」
「ほーん。勉強してるっていうのは否定しないところを見る限り、勉強に精を出しているのは本当らしいな。でも、大学に行かんとは、矛盾のようなことするじゃねぇか」
「知識が欲しくて勉強してるだけです。学問を極めたいわけじゃない。だから、家でも勉強はできるってことです」
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