蜘蛛は助けを求めない

6/6
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
刑事は殺人容疑と少女の姿を目撃し接触した参考人として、何度も取り調べを行った。少女を撲殺した容疑は重く男自身も軽い罪にしてほしいとは思わなかった。 捜査協力をしてほしいという依頼にも極力素直に応えた。その取引として罪を軽くするという申し出には一切拒否したのだった。 少女の頭を陥没させてから、男の右腕はぶるぶる震えるようになり使い物にならない。日常生活に支障はないものの、細かな作業は難しくなった。 「あなたが、どんなに蜘蛛を助けても、救いの糸は降りてこない」 少女の最期の言葉が耳によみがえる。刑事にはわからないととぼけたが、おそらく、地獄に落ちる人間は助けたところで無意味だと言いたかったのだろう。 もしくは、救われるなんて許さない。彼女の深い怒りと悲しみが言わせた言葉だったのではないかと、震える右腕を左手で強く掴んだ。 震える腕を掴むたびに目頭が熱くなる。ぽとりとしずくをこぼしたところで、震える右腕が治るわけではない。医者に診てもらっても身体上の疾患は見受けられず、精神的なものだという診断しかつかなかった。 現在、男は素直に罪を償おうと素直に警察の指示に従っている。使い物にならなくった右腕の代わりに、左手が利き手並みに使えるようになるよう練習中だ。 捜査に協力をしているおかげで、少女のことがちらほら男の耳に入ってくる。少女に協力した人間の存在が、まったく浮かび上がってこないそうだ。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!