美咲は誠也になにかがしたい

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 予約のお店は、ホテルから徒歩で十分くらいの場所だった。ビルの一階に入っているテナントで、紺色の暖簾と赤い格子戸の入り口は風情があって、とても上品だ。  カラリと格子戸を開けて店に入ると、着物をさらりと着こなした店員さんが笑顔でこちらにやって来た。店の中をちらりと見ると、なんだか小綺麗にしているお客さんばかりだ。  ……どうしよう。  いつもみたいに、しもむらの上下で来てしまったのが恥ずかしい。店の雰囲気に……明らかにそぐっていない。 「いらっしゃいませ」 「予約をしていた、宮部ですけど」 「はい、お待ちしておりました。こちらへどうぞ」  店員さんと話す誠也は、いつもの通り出で立ちに隙がない。いや、誠也のスタイルならしもむらの服を着ていても、高級なものに見えるんだろうな。  席に案内された私は、ついため息をついてしまう。すると誠也は耳聡くそれに気づいたようだった。 「どうしたの、美咲ちゃん」 「いや……もう少しおしゃれをしてくれば良かったなって」  おしゃれをしても少しマシになるくらいだけれど。それでも、もう少し背筋を伸ばせた気がする。ダメだなぁ、ちゃんと考えないといけなかった。 「なんで? いつも通り可愛いのに」 「……誠ちゃんの感覚は、なに一つ当てにならない」 「ひどいなぁ」  誠也の手がこちらに伸ばされる。そして彼は、私の手を優しく握った。
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