それは呪いのような恋

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それは呪いのような恋

 なんで、どうして。アイツがここにいるのだろう。 「美咲ちゃん!」  私が人生で最も憎んでいる男……宮部誠也は咲き誇る桜の木をバックにして、笑顔でブンブンと手を振った。  誠也は、非常に人目に立つ男である。  すらりと高い背、なんでも着こなしてしまうスタイルの良さ。少し垂れた目が可愛い印象を与えるまぶしいくらいに整った顔立ちに、綺麗なハスキーボイス。  そんな誠也は、私、乙川美咲の小学生の頃からの幼馴染だ。  周囲の人々は誠也の美貌に見惚れたあとに、彼に声をかけられた私に目を向ける。そして『どうしてこの地味な女がこのイケメンと知り合いなんだ』というまったく腑に落ちていない顔を次々とした。  幼い頃から、誠也と一緒にいるとされるこの反応。  それに慣れるなんてことはなく、自尊心はじくじくと抉られる。  ダイエットをしてもなかなか脂肪が落ちない、ぽっちゃりとした体。どれだけ手入れをしても癖が強くて跳ねてしまう、肩下まで伸びた髪。平均より下の冴えない顔。それが私という女だ。  誠也は昔から『好きだ』と言って私を追いかけてくる。綺麗な男の子が好いてくれることを、幼い頃は無邪気に喜んでいたけれど……今はただただ、逃げたいだけだ。  誠也が側にいることで、周囲に『なぜお前が』という目を向けられ、嘲りや怒り混じりの『不似合いだ』という声を数えきれないくらいに浴びせられ。私の自尊心は傷つけられ、抉れていって、醜く腐り落ちて。  ――もう、今は元の形なんて無い。
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