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「美咲ちゃん、祖父ちゃんと僕は恋愛面では割と似通ってるんだけど。それでも聞きたい?」
「……え?」
ぽかんとした顔で僕を見た後に、美咲ちゃんはすべてを理解したようでぶんぶんと首を横に振った。そんな美咲ちゃんと見て、祖父ちゃんは気まずそうに目を逸している。
「……恋愛面だけじゃなくて、いろいろなところが誠也は俺と似とる。軟弱だった浩文とは大違いだ」
祖父ちゃんはそう言うと、酒をぐいっと煽った。……そろそろ飲みすぎなんじゃないだろうか。ちなみに浩文というのはうちの父である。
「だから、誠也が会社を継いでくれればいいんだがなぁ」
「祖父ちゃんは、世襲で会社を継ぐ人間を選ばないんだろう」
「当然だ。卒業後うちに入社するのなら、他の社員と一緒に扱う。その上で贔屓目なく、見込みがあれば……という話だ」
「……やだ、面倒」
――そういうのは、美咲ちゃんも嫌がるだろうし。
僕はその言葉を飲み込む。これを口にしたら、祖父ちゃんは『将を射んと欲すれば先ず馬を射よ』とばかりに美咲ちゃんを抱き込みにかかるはずだ。
「僕の将来のため」なんていう耳触りのいい言葉を使いながら。
そうすれば気の弱い美咲ちゃんは、苦しむだろう。
会社の経営自体はやりがいがありそうだなって正直思うし、興味もある。
だけど僕の存在自体が美咲ちゃんの重荷になっているのだ。これ以上の重荷は、背負わせられない。
ちらりと美咲ちゃんをみると、すでになにかを考え込んでいるようだった。彼女がマイナス思考の沼に入る前に、なんとかしないとな。
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