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祖父ちゃんは、すっかり美咲ちゃんを気に入ったようだった。
ご機嫌に話しかけ、美咲ちゃんの返答に嬉しそうに頷き……そして酔い潰れた。
そんな祖父ちゃんを迎えの車に押し込んで、僕らもタクシーで帰途に就く。
行きはあんなに震えていた美咲ちゃんは、今は驚くくらいに落ち着いていて――僕はそれが、寂しいと思ってしまった。
「……美咲ちゃんいいの、あんなこと言って。祖父ちゃんは真に受けるよ?」
「あんなこと?」
美咲ちゃんはきょとんと首を傾げる。
「僕を支えるって話」
苦い顔をしながら言う僕を見て、美咲ちゃんは目を丸くした後に――なんだか大人びた笑みを浮かべた。
「支えたいのは本当だよ? 私なんかが誠ちゃんと一緒にいていいのかなって、まだ時々思うけれど。そう思ってばかりじゃいけないなって……思ったの。誠ちゃんがやりたいことがあるなら、そのお手伝いをちゃんとしたい。誠ちゃんはバカな私を守ってくれようとするだろうけど……それだけじゃ、嫌だなって」
そう言って美咲ちゃんは僕の肩に頭を寄せた。髪を撫でるとさらりとした感触が手に伝わってくる。
「美咲ちゃん……」
胸中でいくつもの気持ちが渦巻く。
弱いままの美咲ちゃんを僕だけが守りたい。
強くなった美咲ちゃんは、僕のところからいなくなりそうで怖い。
だけど僕の隣に居ようとしてくれる、その美しい覚悟が嬉しい。
――どんな彼女でも……愛おしい。
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