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「翼。美咲ちゃんになにしてんの」
体が後ろに引かれたと思ったら、すっかり慣れてしまった体温に抱きしめられた。翼くんと話していた時点で鋭かった周囲の視線が、さらに鋭くなっていく。
……やだなぁ、こんなところでこういうことは本気で止めて欲しい。
私が女の子に刺されたら、誠也はどうするつもりなんだろう。
「誠ちゃん!」
名前を読んで見上げると、怒りの表情を湛えた誠也がそこに居た。彼は私にちらりと視線を向けると、ほにゃりと一瞬相好を崩す。しかし視線をすぐに前に向けて、翼くんを睨みつけた。
「なにしてんのって言われても。美咲さんとお話してただけだよ?」
翼くんはそう言うと、へらっと気の抜ける笑みを浮かべる。誠也はそれに毒気を抜かれたようで、大きなため息をついてから私を離してくれた。
「翼。美咲ちゃんと話すのはいい……いや、本当は良くないけど。すごく良くないけど。従兄弟だからギリギリいいとする」
「……ギリギリ。こわ」
どこか呆れたような声が、翼くんから漏れる。うん。翼くんとも昔からの付き合いなんだから、話せなくなるのは困るよ。
「だけど触るのは、絶対ダメ!」
誠也はそう言うと、私を再び抱きしめた。苦しい! 私と誠也の体格差だと、本気で抱きしめられると上から押し潰されるみたいになるんだけど!
「誠也。美咲さん、苦しそう」
翼くんに言われて誠也はようやく私の状況に気づいたようで、抱きしめる腕をそっと離してくれた。
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