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「で、翼となにを話してたの?」
翼くんが手を振りながら去り、その背中が見えなくなった瞬間。誠也は私をまた後ろから抱きしめ、そう囁いた。イケメンからのバックハグなんてふつうだったら嬉しい案件なんだろうけど、誠也からの『コレ』は『獲物を逃さない』という空気を感じて嬉しくない。
相変わらず……周囲の視線も痛いし。
人目がないところでやって欲しかったなぁ。これじゃいつ『実害』が出るかわからない。私、中高生の時みたいに、みんなに無視されたり、バケツの汚水でびしょぬれの雑巾をぶつけられたり、校舎裏に呼び出されて突き飛ばされたりはもう嫌なんだけど。
「美咲ちゃん」
抱きしめる腕が強くなって、誠也の声音が一段低くなる。
それを聞いてびくりと身を震わせると、つむじにキスが何度も降ってきた。安心させるためなのか、それともマーキングなのか。
とにかく私が理由を言うまで、誠也は離さないのだろう。
「……どうせなら、サプライズにしたかったんだけどなぁ」
私が大きなため息をつきながら言うと、誠也が「サプライズ?」ときょとんとした声を返す。
「誠ちゃんの誕生日になにをあげたら喜ぶかなって、翼くんにリサーチしてたの。これ以上はここでは話したくないから、どこか別の場所に行かない?」
せめて飲食店で対面とか、落ち着いて話せる状態で話したい。
「誕生日……サプライズ……。美咲ちゃんが? マジで?」
しばらくぶつぶつとつぶやいてようやく言葉の意味が飲み込めたらしい誠也は、私を抱きしめる腕をやっと解いてくれる。そして……
「め、めちゃくちゃ嬉しい!」
女神もかくやと言う笑みを浮かべながら、私の両手を握ったのだった。
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