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「旅行代なんて、僕が出すのに」
「ダメ、誕生日プレゼントなんだから。なんて言うか、ふだんから誠ちゃんの負担が大きすぎると思うんだよね」
珈琲を一口飲んでから私が言うと、誠也はわからないというように首を傾げる。
「負担なんて一切してないよ? やっと美咲ちゃんに付き合えてもらえたんだから、尽くさなきゃ! っていうのは常々思ってはいるけど。でもそれは無理にやってるんじゃなくて、僕が楽しいからだからね?」
見た目的に、ふつう逆だろう。そんな苦い気持ちを、珈琲の苦味と一緒に飲み干す。私が誠也に尽くしている図の方が、世間様もきっと納得してくれる。
「……それ、なにかおかしいし」
「そうかなぁ? 美咲ちゃんに僕はもっともっと、尽くしたいんだけどなぁ」
そう言われてもなぁ。誠也に尽くされるのは、ちょっとだけ嬉しいけれど。だけど重たくもあって、申し訳なさもある。そして……
『私だって……誠ちゃんになにかをしてあげたいのに』
そんな拗ねたような気持ちにもなるのだ。
「……私だって、誠ちゃんになにかしてあげたいよ」
ぽつりと内心を漏らすと、誠也の綺麗な瞳が、驚きに満ちて大きく開いた。その表情は次の瞬間には、心底嬉しそうな笑顔に変わる。
「そっかぁ。そうだね、美咲ちゃんになにかしてもらえるのは、僕も嬉しいよ」
誠也は鼻歌……どころか、今からミュージカルでもはじめてしまいそうに浮かれている。私の言葉でこんなに喜ぶ彼は、いつもながらの変人だ。
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