美咲は誠也になにかがしたい

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 新幹線に乗り込んで指定席に並んで座る。東京から京都までは二時間と十五分か。暇つぶしに持ってきた文庫本を鞄から出して、それを読もうとした時…… 「美咲ちゃん、なにか食べようよ」  少し後ろの席まで来ている車内販売をチラチラと見ながら誠也が言った。 「誠ちゃん。朝ご飯食べたばかりだよね?」 「でも、旅の醍醐味だよ? ほら、アイス食べよう?」 「アイス……」 「抹茶とバニラがあるみたい。珈琲も飲もうか」  ……うう、美味しそうだなぁ。  たしかに新幹線でなにかを食べるのは、旅行の醍醐味なのだ。  そして私は『食』の誘惑に弱い。そうじゃなきゃこんな体型をしていない。 「……食べる」 「うん、そうしよ。お姉さん、抹茶とバニラのアイスを一つずつと、ホット珈琲を二つください!」  誠也は手早く注文をすると、こちらにアイスとホット珈琲を渡す。私の好みは把握されていて、アイスは抹茶を躊躇なく渡された。バニラも好きだけれど、私は抹茶の方が好きなのだ。 「ありがとう」 「どういたしまして!」  にこにこの誠也からアイスを受け取って、蓋をぺりりと剥がす。こういう車内販売のアイスはカチコチになっているイメージだけれど、そのご多分に漏れずこのアイスもカチコチだった。……スプーンが通らないけど、これも醍醐味だよね。
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