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「美味しい!」
スプーンで突いているうちに柔らかくなったアイスを口に入れると、濃厚な抹茶の味が口の中で蕩ける。その甘さに思わず頬が緩んでしまった。
「美咲ちゃんが、喜んでくれて良かった」
隣でバニラアイスを頬張りながら、誠也は頬を染めて笑う。
「……誠ちゃん」
「なに?」
「この旅行は、誠ちゃんを喜ばせるためのものなんだからね?」
だってこの旅行は、誠也の誕生日のお祝いのためのものなのだ。
「うん、喜んでるよ? 美咲ちゃんが嬉しそうだと僕も嬉しい。だからもっと旅を楽しんでね」
「……本末転倒感があるなぁ」
「僕が一番嬉しいことって、美咲ちゃんと一緒にいられることと、美咲ちゃんが嬉しそうにしてることだから。これは仕方ないよね」
誠也はそう言うと、珈琲を上品な仕草で口にした。
……これだけ聞くと、健気なんだけどな。
この男は気持ちがやばいくらいに重たい、元ストーカーなんだよね。もうすっかり絆されている自覚はある。
「美咲ちゃん、バニラも食べる?」
「……食べる」
「はい、お口開けて」
「……うん」
口をぱかりと開けると、アイスが口に入れられる。うん、バニラも美味しい。
誠也にものを食べさせられるのにも、すっかり慣れてしまった。慣れたと言っても、当然恥ずかしくはあるんだけど。誠也はこういう給餌行為が、本当に好きだ。
私もこれを誠也にやってあげたら……喜んだりするんだろうか。
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