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「誠ちゃん」
「なに?」
「……お、お口開けて」
そう言いながら抹茶アイスが乗ったスプーンを差し出すと、誠也は目を大きく瞠った後に……
「待って。幸せすぎて……死にそう」
顔を真っ赤にして、蚊の鳴くような声で言った。
……本当に大げさだな。
「僕は世界で一番幸せかもしれない」
私が食べさせたアイスをじっくり味わいながら、誠也はしみじみと言う。
「……なにを大げさなこと言ってるの」
「大げさじゃないよ。美咲ちゃん、もう一回食べさせて」
「恥ずかしいから、嫌」
「でもほら、僕の誕生日のお祝い旅行だし!」
「むっ……」
そう言われてしまうと、私には断ることができない。
スプーンにまたアイスを掬ってから差し出すと、誠也は嬉しそうにそれを口にした。
……唇、綺麗だなぁ。歯並びもすごくいいし。
そんなことを思いながら、また催促するように口を開かれたのでアイスを入れる。
「そっか……。この旅行中はこんなふうに甘えていいのか」
「……恥ずかしすぎることはしないからね?」
誠也が味をしめたことを言い出したので、慌ててぶすりと釘を刺す。すると彼は悲しそうに眉尻を下げた。
「……ダメなの?」
「そんなに恥ずかしくないことなら……してもいいよ」
「そっかぁ。なにをしてもらうか考えておこう」
ふふふと嬉しそうに笑う誠也を見ていると、少し『しまったな』という気持ちが湧いてくる。だけど誠也のための旅行なのだし……仕方ないよね。
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