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そうやって一定の距離を保ったまま、しばらく歩く。
「……パパは元気?」
まったく話題に出さないのも不自然なので、こちらから尋ねると、周は足を止めて振り返った。
「元気だよ。あゆむ、会ってないの?」
「うん。会ってない」
「ふーん」
彼はふたたび歩き出した。
縁石からマンホールに飛び移ったりと、忙しない。
おそらく彼の中では今「地面を踏まずにどれだけ進めるか」というゲームが進行中なのだろう。
「じゃあ明日、また3人で遊ぼうよ。パパんち行く日だから」
「え、いや……」
「どっか行きたいなー。遊園地行きたい。あ、じゃあ歩も泊まれば!?」
歩は立ち止まり、曖昧に微笑んだ。
「……パパとはしばらく会ってないから、いきなり行ったらびっくりしちゃうよ」
「しねーよ。今、パパに聞いてみる!」
彼はポケットから子ども用のスマートフォンを取り出した。
こちらが慌てて手首を掴んで制止すると、その涼しげな目が見開かれた。
「行けないよ」
「なんで?」
「パパとは喧嘩しちゃったから……」
「仲直りすればいいじゃん」
「そんなに簡単じゃないんだよ」
周は腑に落ちないのか、わざとらしいくらいに首を捻って、踵を返してしまった。
「変なの!」
そしてふたたび、縁石に乗る。
ここはよく抜け道に使われているので、車通りは多い。周の乗り上げた縁石のすぐそばを車が走り抜けていき、冷や冷やした。
「そんなところ乗ったら危ないよ」
「降りてほしければパパと仲直りして! 歩とお泊まり会したいもん」
無茶いうなよ————
彼はいたずらに背後を振り返っては、わざと車道側にふらつく動作をした。
「周!」
声を上げると、彼はふたたび振り返った。その拍子に重心がぐらつき、彼の体は車道側に大きく傾いた。
彼を支えるために車道に出たのと、クラクションの音が耳たぶにぶつかるような距離で鳴ったのは、ほぼ同時だった。
一瞬のうちに、衝撃や叫び声、ブレーキ音がいっしょくたになって、上空に弾け飛んだ。
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