100日間の落下傘 02

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100日間の落下傘 02

どうしよう。 大変なことになったぞ。 焦りというか、申し訳なさというか——はたまた羞恥なのか。 点滅する赤いサイレンに引き寄せられてできた、人だかり。それらをかき分けるようにして車内に押し込められた時は、身が縮むような思いだった。 周を庇うように車道に出た際、歩は背後から走ってきた車道と接触し、倒れた。 しばらくはなにが起きたのかわからず、放心して歩道に転がったままでいたら、目撃した近隣住民が救急車を呼んでしまったらしい。 肩を打撲した以外は、特に目立った外傷はなく、自力で車に乗り込んだ。 肩の痛みもすぐに治ったため、病院になど行かなくても大丈夫だとしきりに告げたものの、救急隊員になだめられるようにして、人生初の救急車に乗った。 周はさすがに責任を感じたのか、最初はずっと泣いていたが、歩が元気そうなことと、初めての救急車に興奮したのか、次第にいつもの調子に戻っていった。 あちこちキョロキョロと見て回る彼を歩がなだめ、救急隊員が苦笑いしたほどだ。 病院についてからは、レントゲンを撮ったり簡単な処置をされた。 骨に異常はなく、診断はやはり軽度の打撲だったが、頭を打った可能性もあるから、一応、1時間くらい様子を見てから帰宅するようにと言われた。 歩はベッドに腰掛け、いわゆる「様子見」というやつをしながら、ぼうっと考えた。 さきほど、隊員に促されるまま、車内で家族に電話をかけたが、見事に全員、出なかった。 そうこうしているうちに検査も終わってしまったし、もうこのままひとりで帰れそうだが、これでもまだ母親を呼び出す必要があるのだろうか———— 思いかけて、かぶりを振った。 保険証はもっているが、まとまったお金は持ち合わせていない。支払いが発生した場合は、やはり来てもらわねばならないだろう。 そもそも、救急車って、お金かかるんだっけ? ふと不安に駆られて、スマートフォンを探そうと、ベッド脇に置いてある鞄をまさぐっていた時だった。 背後で勢いよくカーテンを引く音がして、歩は顔を上げた。 どうせ周だろう。 スマートフォンを取り出し、体を向き直した時、思わず声を上げてしまった。 そこには眉間にシワを寄せ、緊迫した表情で立ち尽くす、神楽坂の姿があったからだった。
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