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ドラセナ 01
用意されたTシャツは、ほとんど着用された形跡がなく、裾や丈がだいぶ長かった。
袖を通し、布地に染み込んだ部屋のにおいをかぐ。彼の生活感——その深い一部分を知れたようで嬉しかった。
テレビの横の観葉植物はドラセナ。
テーブルの天板はオーク材。
すべて覚えている。
こうしてふたたび神楽坂の部屋に来られるなんて思ってもみなかった。
シャワーの湯をかぶってもまだどこか夢心地で、気持ちはふわふわと浮遊していた。
——食事をしてから2人そろって帰宅した後、まずは親に連絡するように言われた。
ふたたび事故の詳細やらなんやらを説明していたら時間を食ってしまい、電話を切ったときには神楽坂は先にシャワーを済ませていた。
潔癖症の歩を気遣い、ついでに風呂掃除をしてくれたのだそうだ。
彼と入れ替わる形で沸かしたての湯に浸かり、髪を乾かしているときにようやく、緊張が影を踏むようについてきた。
リビングに戻ると、神楽坂はソファーに座っていたが、前屈みになったりもたれてみたりと、珍しく落ち着きのないように見えた。
背後から抱きつくと、その体が震えた。
「上がったよ」
神楽坂は振り返って、歩の頭から足の爪先までをまじまじと見た。
「髪がサラサラだと幼く見えるね」
「そうかな」
幼いと言われて、内心焦った。
彼がふたたび怖気付いてしまうのではないかと、気が気じゃなかった。
歩は彼の肩に顎をのせた。
「寝室、見てみたいな……」
「えー? ベッドしかないから、見てもつまんないよ」
つれない返事だ。
歩はふと不安になりかけたが、彼の首から耳までが赤くなっているのを見て、安堵した。
その赤く染まった部分——うなじから耳たぶにかけてキスを落とし、耳の穴にまで達したとき、歩は熱い吐息とともに、誘惑の言葉を吹き込んだ。
「もう眠たい……」
神楽坂はようやく立ち上がり、歩の手を引いて寝室まで誘導してくれた。
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