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彼の言った通り、寝室にはベッドしかなかった。
シーツはきちんと整えられている。
歩は片側に寝そべって、神楽坂が覆いかぶさってくるのを期待したが、待てども待てども、それらしき気配はない。
頭を上げると、彼はベッドの端に腰掛けたまま、こちらに背を向けていた。
歩は体を起こし、その隣に座り直した。
「恭ちゃん」
神楽坂は膝の上でつくった拳を握りしめたまま、俯いている。
「どうしたの?」
「いや……やっぱりさ、うん。どうなのかなって」
「どうって?」
歯切れの悪い返事に、歩はすでにイライラし始めていた。
「君のご両親の立場になって考えると複雑なんだよ……」
「なんでいきなり両親が出てくるわけ?」
「例えば、周がもし歩ぐらいになった時、彼が40すぎのおじさんと付き合ってたら——俺は、受け入れられるのかなって」
「うちの両親は、俺が決めたことなら反対しないと思う。それに、もし周がそうなっても、それは——周が自分で決めること。恭ちゃん、俺にそう言ったじゃん」
彼はいじけたようにそっぽを向いてしまった。
「でもまだ君は17だし……」
やはり、年の差が気になるのだろうか。
「あのさ、同意の上なら淫行にならないよ? 俺も気になってネットで調べたけど、国民には性的自己決定権という基本的人権があって——-」
「そういうこと言ってるんじゃないよ」
神楽坂はため息をこぼしてから、ようやくこちらを向いた。
しかしその目はすでに熱をもって潤んでいる。
「男と付き合うことになるんだよ。歩は本当にそれでいいの?」
いいもなにも、何度も自分で決めたと言っているじゃないか。
ため息を吐きたいのは歩のほうだった。
新たに返事をするのも馬鹿馬鹿しくなり、彼の肩に頭をもたれながら体をすり寄せた。
すると、やっと神楽坂は歩の肩を掴み、ベッドに押し倒してきた。
「もう女の子抱けなくなっちゃうかもよ……」
見下ろされ、低い声で囁かれると、それだけでもう下半身が反応し始めてしまう。
歩は身を捩って催促するように、彼の背中に手を回した。
「それでもいい……」
どうなってもかまわない。
歩はもう、神楽坂しか欲しくなかった。先のことまで考えていられないし、考えたくもない。
その瞬間、彼の瞳がぎらつくのを、歩は見逃さなかった。
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