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エレベーターに乗り込むと、キラキラアンドロイドは20階のボタンを押してから、振り返ってきた。
「誰かのおつかい?」
「あ、はい。ちょっと届け物を頼まれて……」
「えらいね」
AIのように抑揚のなかった声が少し高くなり、初めて微かに口角を上げた。
そこでやっと、歩は確信したのだった。
ああ、この男はやはり人間なのだ、と。
それにしても、彼の目に自分はどう映っているのだろう。
まさか、中学生だと思われているんじゃ——
返し方がわからず、むっつり黙り込んだままでいる間もエレベーターはぐんぐん上昇し、やがて20階を示すボタンが点滅した。
キラキラアンドロイド改めただのキラキラは、ボタンを押したまま、歩に先に降りるよう促してきた。
「右側のそっち、マガジンホーム専用の総合受付だから。そこで呼び出せば大丈夫」
「あ、ありがとうございます」
「担当者の名前わかる? 平気?」
「わかります。大丈夫です」
するとキラキラは、手を胸元まで上げて振った。
「ばいばい」
歩もつられて手を振り、彼が遠ざかっていくごとに、なにか幻でも見ているかのような気持ちになった。
携帯電話に連絡したほうがいいかとも思ったが、せっかく総合受付に来たので、係の女性に声をかけて神楽坂を呼び出してくれるよう頼んだ。
待合スペースは広く、中央のモニターには事業紹介らしきPR動画が流れていて、室内を取り囲むようにしてマガジンラックが設置されている。
そこには隙間なく、刊行物と思しき雑誌や書籍が並べられていた。
女性に促されるまま、皮張りのベンチにとりあえず腰掛けてはみたものの、落ち着かない。
たまたま左側にあったラックが目に留まり、展示されていた雑誌を手に取ってみる。『ONe』——10代後半から20代前半を対象にした、有名なメンズ向けファッション誌だ。
この雑誌の専属モデルはいわゆる俳優の登竜門といわれていて、過去にそれらを務めたモデルは、誰しもが有名になり、第一線で活躍をしていた。
一般知識としてそれぐらいは知っているものの、歩は『ONe』を購読していない。ファッションの情報は基本、ウェブでとることが多いし、雑誌は美容院などでたまに読む程度だった。
「あ!」
何気なくぺらぺらとめくった時、思わず声が出てしまったのは、先ほどのキラキラと目が合ったからだった。
——紙の中で。
誌面のいたるところに、キラキラは映っていた。
先ほど肉眼で見た時よりも、いくらか落ち着いて見える。インクや紙が、あのキラキラの粒をいくらか吸い取ってしまったのだろうか。
クレジット欄に記載されている「モデル=玄」という名をスマートフォンで検索すると、プロフィールを簡単に見つけることができた。
彼はやはり『ONe』の専属モデルで、有名な芸能事務所に籍を置いていた。
なにより歩が驚いたのは、玄がまだ21歳ということだった。
自分とそう変わらないのに、まるで小さな子どものように扱われたことが、釈然としなかった。
彼がアンドロイドならばそれでもよかった。しかし、ネットの情報によれば、彼の皮膚の下にはしっかりとB型の血が流れているようだし、しかもたったの4つ上だ。
そんなに自分は幼く見えたのだろうか————
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