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土屋歩には、神楽坂恭太という人間がまるでわからなかった。
初めて会った時も掴みどころのない人間だとは思っていたが、それでも気持ちが通じ合うころにはそれなりに——彼のなかに折り畳まれている深部、少なくともその襞ぐらいは知ったつもりでいた。
しかし、それは自惚れだったのだろうか。
実際、恋人同士になった今も、歩は浮き沈みのなかから抜け出せずにいる。
知り得た彼の部分が、深層だったのか表皮だったのか、また、どの位の割合を占めていたのかなど、経験の浅い自分にはわかるはずもない。
歩が気弱な発言を繰り返すたび、親友の一ノ瀬三月に
「アユがわかんないなら、世界中の誰も、あのおっさんのことなんかわかんねーから!」
と笑い飛ばされた。
所詮、わかってもらえるはずなどないのだ。
背中のあちこちにキスマークをつけて、独占され、わかりやすい形で愛を受けとっている三月なんかには————
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