番外編  100日後の落下傘

2/11
前へ
/131ページ
次へ
土屋(つちや)(あゆむ)には、神楽坂(かぐらざか)恭太(きょうた)という人間がまるでわからなかった。 初めて会った時も掴みどころのない人間だとは思っていたが、それでも気持ちが通じ合うころにはそれなりに——彼のなかに折り畳まれている深部、少なくともその(ひだ)ぐらいは知ったつもりでいた。 しかし、それは自惚れだったのだろうか。 実際、恋人同士になった今も、歩は浮き沈みのなかから抜け出せずにいる。 知り得た彼の部分が、深層だったのか表皮だったのか、また、どの位の割合を占めていたのかなど、経験の浅い自分にはわかるはずもない。 歩が気弱な発言を繰り返すたび、親友の(いち)()三月(みつき)に 「アユがわかんないなら、世界中の誰も、あのおっさんのことなんかわかんねーから!」 と笑い飛ばされた。 所詮、わかってもらえるはずなどないのだ。 背中のあちこちにキスマークをつけて、独占され、わかりやすい形で愛を受けとっている三月なんかには————
/131ページ

最初のコメントを投稿しよう!

798人が本棚に入れています
本棚に追加