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シャワーを浴びて出ると、神楽坂はテレビの画面をリモコンで操作しながら、動画配信サービスのサイトで映画を物色していた。
リビングにはコーヒーの香りが漂っている。
歩が風呂に入っている間に、彼はいつもそうやって必死に酔いを覚まそうとする。
リラックスした空間を作り上げることで、若い恋人から溢れ出している激しい欲求を、薄めようとするのだった。
穏やかな空気のなかを割って入るように、歩は彼の背後から近づいた。
「あ、上がったの?」
ソファーの背もたれを跨いで飛び越え、彼の隣に座る。
神楽坂の視線が一度、下に落ちてきて——そしてまた、テレビ画面に戻った。
「なんで下履いてないの」
「下着は履いてるよ」
「じゃなくて。ちゃんと用意してあったでしょ。風邪ひくよ」
神楽坂は素っ気なく言って、リモコンを操作している。
パーカーのみを羽織って出てきた歩のほうを、ふたたび見ようとはしなかった。
歩はソファーに寝そべり、彼の膝に脚を乗せた。
ふくらはぎで圧をかけると、神楽坂は短いため息を吐きながら、ようやくこちらを見た。
視線が、脚のラインをなぞるようにして動く。
コーヒーの香りのなかに、すえた類いのものが、どこからか紛れ込んできた。
「恭ちゃん、寒い……」
「だから、下履きなさいよ」
やはり、声は素っ気ない。
歩は膝を曲げて、足の指で彼の下半身を圧迫した。
声や態度とは違い、そこは熱く脈打っていた。
「あったかくして……」
歩は、彼の穏やかだった目が黒く光る、この瞬間が好きだった。
普段はへらへらしているからだろうか。真顔になった時のその表情を見るだけで、全身に鳥肌が立つ。
「んっ……」
やがて、彼も体を倒してきた。
すぐさま、熱い舌が絡みついてくる。
1週間ぶりにキスを与えられたせいか、恥ずかしいほど鼻息が荒くなってしまう。
歩も背中に手を回し、腰を浮かして体を密着させながら、彼からのキスに応えた。
身体中の血液が発泡して一気に巡っていくような心地よい感覚をしばし味わっていると——神楽坂は一端、唇を離した。
「玄君とは何回したの?」
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