番外編  100日後の落下傘

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「もしかして、ここも?」 「ん、ン……ッ!」 かき回され、真っ白になる。 歩は首だけを捩って、虚ろな視線を彼に向かって投げかけた。 神楽坂は無言のままそれを受け取り、理解したようだった。 「あぁ……っ!」 ある部分で指を曲げられて、歩の体は、まるで電気が流れたように跳ね上がった。 強烈な快感と、息苦しさ。 そこを執拗に刺激されると、自身で消化できないものが止めどなく溢れてくるようで、錯乱状態に陥るのだった。 「や、恭ちゃんっ、あ————」 抵抗する間もなく、全身が痙攣する。 彼の指を巻き込む形で硬直し、肩で息をしながら、身体が弛緩するのを待った。 しかし神楽坂は、まだ力の抜けきれていない状態のまま、ふたたび歩の体をかき回した。 「やだっ……や、あっ」 「彼の時も後ろいじられるだけでこんなんなっちゃった?」 「ない……なってない、からっ」 堪らず、前進して避けようとするが、腹部に手を回され固定されてしまう。 懇願もむなしく、神楽坂は容赦なく、歩を追い込んだ。 「あぁ、あ……っ! また————」 歩はふたたび突っ伏して、押し寄せる第二波にそなえた。 そして、震えに包まれた時、いよいよ意識を失ってしまうかと思った。 しゃくり上げるようにして息を吸い込むと、目尻から涙が溢れてきた。 「も、やだ……それやめて……」 膝が震えて、体勢を保つのが難しい。 しかし、それでもなお、彼の指は歩を弄んだ。 「いれて……」 ようやく口にした、途切れ途切れの言葉は、掠れていた。 この際、恥じらってなどいられない。彼を求めるようにして腰を突き出すが、それでも神楽坂が近づいてくる気配はなかった。 そしてまた、それこそ楽しむように——指を操った。 「だめ……、あっ! あぁ」 堪らず、後ろ向きのまま手を伸ばし、彼の手を掴もうとするものの、虚しく空中をさまようだけだった。 「い、あっ……やだ、や……」 彼の指ひとつで、またじわじわとのぼりつめていく。 歩はは首を左右に振りながら、ソファーの布地に額をこすりつけた。 神楽坂の態度はやはり、容赦ない。 一体どんな顔をして、自分を弄んでいるのだろう。表情が見たいと思うが、今はその余裕がなかった。 「も……っ、あ、ああっ———」 何度目かわからない絶叫を上げたとき、それがそのまま嗚咽となって吐き出された。 それは単に、快楽の搾りかすが泣き声になっただけのことだったが、声に驚いたらしい彼の動きが、ようやく止まった。 「歩?」 体をひっくり返され、顔を覗かれる。 顔を押し付けすぎて額はおそらく赤くなっているし、涙でひどい有様のはずだ。 歩は腕で目元を覆いながら、空いた手で神楽坂の腕を掴んだ。 「恭ちゃんのがいい……」 「俺の?」 「いれて、お願い」 無我夢中だった。 神楽坂は歩の足を抱えると、まもなくして腰を押し付けてきた。 ゆっくりと彼の気配で満たされていった時、興奮と安息という、相反する感情が一度に訪れた。 「あ、ぁ……」 「ここは? 本当に俺だけ?」 神楽坂の、吐息混じりの声が耳元で響く。 歩は彼の首に腕を回して応じた。 「恭ちゃんだけ……。恭ちゃんしかいらない——」 そのまま両足で彼の腰を挟み、深く繋がることを要求した。 途端、神楽坂を抑制していたなにかが弾けたように、動きが激しくなった。 「んっ、あぁ! 恭ちゃん……っ」 前を扱かれ、安堵感を伴う快楽をようやく与えられると、歩は彼の後頭部を撫でながらキスをねだった。 「ン……——」 彼は荒々しく腰を揺すっていたのをやめて、ようやく丁寧なキスをくれた。 気持ちが追いつかないぐらいに一方的に与えられる快楽よりも、彼と繋がることで得られる充足感のほうが、ずっといい。 舌を突き出して先端を擦り付け合いながらしばし遊ばせたのち、吸い寄せられるようにして、彼の唇を貪った。 名残惜しくも、口を離した後は——彼は、今度はゆっくりと、むしろ焦らすかのようにしながら動きはじめた。 「あ……っ」 彼の、乱れた前髪がかすかに揺れている。 その背後で、鈍い光を放つ電球をふと捉えて——部屋の明るさに気づいた。 しかし、もう今更、隠しようもない。 すでに、彼の視線が歩のありとあらゆる部分をなぞった後だった。 「恭ちゃん、いきそう……っ」 歩が訴えると、彼は額に唇を落としてきた。 そして自らを追い込むように腰を打ちつけてくる。 耳にこびりつく、ソファーのコイルの軋む音と、神楽坂の息遣い。 「恭ちゃん……っ、すき……、あ————」 彼の骨張った肩甲骨に爪を立てると、その体が痙攣して——歩も追うように絶頂を迎えた。
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