再会 01

3/4

798人が本棚に入れています
本棚に追加
/131ページ
「歩って白川高校だよね?」 いきなり名前を呼ばれて、思わず顔を上げた。 学校名を言い当てられたことよりも、彼との距離の近さに驚く。そしてその鼻根の高さ、削げた頬、眉毛の形——間近で見たパーツひとつひとつの美しさに、つい見入ってしまうのだった。 「俺、陽南高校だったから。白川の制服だなーって、すぐわかった」 「え、そうなんですか……」 陽南と聞いてはっとした。 隣町にある陽南高校は、その地域でいちばんの進学校だからだ。 天は、二物も三物も、どうしてこの男にばかり与えるのだろうか。 「あのビルには、撮影かなにかで……?」 「うん。今日もこれから。歩も?」 当然のように言われて、慌てて首を振った。 「いや。俺はあの時たまたま行っただけで、出入りしてるわけじゃないんで」 「そうなの? 制服だったし、なんかの読モなのかと思った」 歩は気まずさを隠せず、ストローに口をつけた。 なんかの読モという例えが、称賛なのか嘲弄なのかはわからないが、少なくとも高校生——年相応に見られていたことだけはわかった。 そのまま、液体を勢いよく吸ったが、果肉だか氷だかがストローに挟まっていて、そう易々とは上がってこない。 いったん吸うのを諦めて、一度唇を離した。 「俺のことよく覚えてましたね。今日は制服じゃないのに」 玄は掴みかけていたコーヒーカップの持ち手を離すと、指をテーブルで遊ばせて、木目をなぞった。 「覚えてるよ」 おそらく癖なのだろうが、喋り方に抑揚がないせいか、いまいちどう捉えてよいのかがわからない。 場つなぎのためにふたたびストローをくわえてみるが、液体は吸えども吸えども出てくる気配がなかった。 「おいしい?」 「まだ吸えてません」 答えると、その端正な顔が近づいてきて、ストローから唇を離した。 小鼻周りを見ても、毛穴ひとつ見つけられない。 必死に彼の人間味——つまりアラを探し当てていたら、いつのまにかストローを奪われていた。 「おいしい」 席に座り直す玄を、歩は恨めしい目で見た。 「歩も飲んでみて」 歩は眉だけをわずかに上げて、もったりと重たいピンクの液体を吸った。 欺瞞さえ漂う、わざとらしいピンク色をしているが、苺の果肉感とさわやかな甘味が氷の粒と混ざり合って、予想以上においしい。 一度に吸うと頭が痛くなりそうなので、ちびちびと吸った。
/131ページ

最初のコメントを投稿しよう!

798人が本棚に入れています
本棚に追加