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再会 02
網にのせられた牛タンは艶やかに赤く、表面をほんのりと茶色く染めながら炙られていく。
網にのせたそばから茶色くなるようなぺらぺらのものしか知らなかったせいか、目の前のものを見ているだけで鼻翼が膨らんだ。
白山通り沿いにある焼肉屋は古い店らしく、早くも待ちの列ができていた。
神楽坂は店主と顔馴染みのようで、予約席に座るなり軽く雑談を交わしながら、いくつか注文をした。
入店した際は、床が油でべったりとしているのが気になりはしたが、運ばれてきた肉をひと目見たら、そんな雑念は途端に吹き飛んでしまった。
「んー!」
口に含んだ瞬間、声がもれてしまう。
肉厚なタンの食感ははじめて味わうもので、咀嚼していくごとに脂の甘味とレモンの酸味が混ざり合っていく。
「いいね。肉を食む若者」
神楽坂はビールのジョッキを置くと、頬杖をつきながらこちらを見つめてきた。
歩は口角についた岩塩を指で拭った。
「なにがいいんですか」
「表情。ご馳走する甲斐がある」
彼の目はまろやかに濁り、頬骨あたりがほんのりと赤く染まっている。
手元のジョッキに入っているビールはまだ半分ほど残っているのに、早くも酔いがまわっているようだった。
「神楽坂さん、酔ってます?」
「えー、そんなことないよ。もう赤くなってる?」
歩が頷くと、彼は両手で頬を挟みながら恥ずかしそうに摩った。
「すぐ赤くなっちゃうんだよね。元々あまり強くないし」
最初は飲まないと言っていた彼に酒を勧めたのは歩だった。
焼肉といえばビール。
まだ飲めない歩でも、それが大人の愉しみであることぐらいはわかる。未成年の自分が同席することで控えてほしくなかった。
「歩の親御さんは強い方?」
「あー、うちは強いですね。両親ともすごい飲みますから。あと、姉がふたりいるんですけど、長女も強いですね」
父親は日常的に晩酌しているが、母親は毎日飲むわけではない。ただ、飲むときはとことん飲むのに、潰れた姿を見たことがなかった。アルコールに対する耐性は、母が最もあるのかもしれない。
「じゃあ歩もきっと強いね。体質は遺伝するから」
遺伝————
それには答えず、曖昧に微笑んだ。
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