再会 03

2/2

798人が本棚に入れています
本棚に追加
/131ページ
「歩は、3人姉弟の末っ子って感じだね」 突然、神楽坂が言った。 話の飛躍ぶりに、思わず首を傾げる。 「なんで?」 「甘え上手で、距離詰めるのがうまいから。要領もいいしね。典型的だよ」 言われてもピンと来ない。 そもそも、2人姉弟と3人姉弟でなにか違いはあるのだろうか。それに、要領がいいと言われたところで褒められた気がしなかった。 口を尖らせていると、神楽坂はこちらの気持ちを敏感に悟ったのか、少し身をかがめて覗き込んできた。 「褒めてるんだよ」 「本当に?」 「その天真爛漫さは武器だよ。社会に出たら、周りの人から絶対に可愛がられるから」 教師みたいな褒め方が気に入らない。 それまで剥き出しだった神楽坂が、いきなり大人という防護服を着込んでしまったみたいだった。 「実はね、俺も上に姉2人がいる末っ子」 自身を指差すと、笑った。 「最初から、歩とはなんか波長が合うなーって思ってたんだよね。そうしたら兄弟構成が一緒だったから、納得した」 波長が合う。 感情とは実に単純なもので、さっきまでのふてくされた部分は、新たにもらった言葉に押されて、どこかに飛んでいってしまった。 「関係あるのかな。兄弟構成って」 「んー、あると思う。俺の場合、親しい人はみんなだいたい末っ子なんだよね。友達も、付き合ってきた人も。逆に上の姉なんかはまわりがみんな長子で、旦那さんも長男だったりするし。血液型の相性よりも、よっぽどあるんじゃないかな。ちなみに、別れた奥さんは長女だったけど」 言いながら、神楽坂は自虐気味に笑った。 歩は自分の人間関係をあらためて振り返ってみた。付き合った相手は末っ子だけでなく真ん中もいたし、親友である三月は一人っ子だから、あまり当てはまっていない気がする。 それに——どちらかといえば、自分の周囲は血液型の相性を気にする人間のほうが多かった。 三月なんかも、思い人との行き違いがあるたびに「タロはB型だから」とか「俺はAだからB型の気持ちがわからない」などとぼやくことがたびたびあった。 「もしかして、恭ちゃんってO型だったりする?」 思考の延長線上でなにげなく尋ねてみると、神楽坂は妙な間を挟んだのち、こちらを向いた。 「あ、俺がO型だから。兄弟構成も血液型もおんなじだったらいいなって思っただけ」 返事をもらう前につい口走ってしまった。反応の鈍さに引っ掛かりを覚えて、勝手に焦ったのだった。 神楽坂は何も言わず、一瞬、窓の外に目をやった。 駅に停車し、乗り降りする人々に押される形で体が密着する。その際、彼の香水の匂いをほのかに感じて、歩の思考もまたもや一時停止してしまうのだった。 「俺、自分の血液型がわかんないんだよね」 ふたたび電車が動き出したタイミングで神楽坂が言った。 「え、そうなの」 「うん。だから血液型の話題にはのれないんだよねー」 返事をしようと思ったが、電車が揺れて、圧迫される形でふたたび体が密着し、何も言えなくなってしまった。 「大丈夫?」 やがて、神楽坂が気遣ってこちらを覗き込んできた。 「ちょっと不安定かも……」 足元に肩幅分のスペースが確保できず、体がぐらつく。 ふたたび揺れたタイミングで咄嗟に神楽坂の腕を掴んでしまった。 「つかまってていいよ」 言われて、歩はそのまま彼に身を預けた。 乗り換えの駅まではあとふた駅だが、体を離したくはなかった。
/131ページ

最初のコメントを投稿しよう!

798人が本棚に入れています
本棚に追加