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再会 04
「ねー、さっきからなんでずっとそこ拭いてんの?」
来海未央が怪訝な表情を浮かべていることに気付き、歩はダスターを握る力を弱めた。
体を起こした際にずれてしまったインカムのマイクを指で押しながら、彼女と向き合う。
「暇すぎてぼーっとしちゃった」
「ねー……。あたしもめちゃ眠い」
客がいないのをいいことに、来海はバーカウンターにだらしなくもたれかかって、窓ガラス越しに行き交う車を眺めた。
——木曜の夜8時。夜のピークタイムが過ぎると、清掃と備品の補充ぐらいしかやることがなくなる。
歩のアルバイト先であるファーストフード店は、住宅地の大通り沿いにある。近くに公園があるせいか昼間や休日は混雑するが、今の時間帯はせいぜいウォーキングついでの客が飲み物を買いに立ち寄るくらいだ。
これが駅前の店舗ならば、今の時間も混んでいるのだろう。
「つっちー、もう進路決めた?」
来海は、実にゆったりとしたペースでコーヒーポーションやガムシロップを補充しながら言った。
「うん。N大の指定校推薦狙い。一応、そろそろ勉強も始めるけど」
「そっかー。じゃあバイトも辞めちゃうの?」
「そうだね。せいぜい年明けまでかなー。でも金欠になるのしんどいから、時期は迷い中」
これでも、1年の時から成績は常に上位をキープしている。
先日の進路面談でも、このままの成績を保っていけば有利な状態だろうとは言われていた。
とはいえ、まだ確証はないので、それなりに保険をかけておかねばならない。
「クルミちゃんは美容師の専門だっけ」
「うん。私は専門行きたいんだけど、親が大学行けってうるさいんだよね。でも、やりたいことが明確なんだし、別によくない!? 今、絶賛喧嘩中ー」
店内に、大きなため息が漂った。
来海とは別の高校に通っているが、同年代でシフトがかぶることも多く、仲がいい。
彼女が一年前から美容師を志望していることは知っていた。
「つっちーはさ、親も応援してくれてるんでしょ?」
「うちはまあ、そうだね」
「まあN大なら反対される理由もないよねー。いいなー、意見が一致してて」
歩はただ、うっすらと笑みを浮かべるしかなかった。
来海はまだなにか言いたげに口を開いたが、次の瞬間、インカムに雑音が舞い込んできて、ドライブスルーの対応に入ってしまった。
歩は、彼女が受けたオーダーを背後で確認しながら、注文の品を用意する。
テイクアウト用の袋にドリンクを差し込んでいると、背後のレジで人の気配がした。
いの字に唇をつくったまま、しばし硬直する。
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