ドライブデート 03

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神楽坂は、公園に隣接する駐車場に車を止めた。 「ちょっとだけ話してから帰ろうか。周がいたからまともに会話できてないし」 エンジンは切らず暖房を弱く入れたまま、シートベルトを外した。 歩もならってシートベルトを外していると、彼はふと窓の外に目をやった。 「外で散歩でもする?」 歩は首を横に振った。 「いい。ここにいたい」 狭い車内にふたりきりでいると、息苦しくて、ひどく緊張した。 しかし、居心地がわるいわけではない。その刺激がむしろ、心地いいのだった。 暖房のぬるい風が、前髪をくすぐる。彼のほうを見ることができずに俯いたまま、組んだ両手を弄んでいた。 この前のように積極的になるには、しばらく時間を要するだろう。 「そういえば来年は受験生だよね。進学するの?」 神楽坂は普通の大人が投げかけてくるような質問をしてきた。 彼とするにはつまらない話題ではあったが、緊張を解すにはちょうどよいと思い、シートに背をもたれながら応じた。 「一応、N大目指してる。指定校推薦狙ってるんだけど、それなりに準備もしておくつもり」 「指定校狙いってことは成績優秀なんだね」 「まあ……」 歯切れの悪い返事をすると、神楽坂は不思議そうに首を傾げた。 「どうしたの?」 「いや、なんかすべてにおいて中途半端だから」 たしかに成績は優秀なほうだ。 しかし、高校自体の偏差値が高いわけではないので、校内で優秀だとしても全学生と相対的に見れば、せいぜい中の上といったところだろう。 幼い頃からなんでもそこそこにできた。 勉強やスポーツ、恋愛も——年相応に、そこそこに。 まわりから取り残されることはなかったが、挫折を味わうほど熱中したものもなければ、悔しさをバネにひたすら努力したこともない。 「なにが中途半端なの」 「やりたいこともなくて、とりあえず中ランクの大学目指して。こんなんでいいのかなって思う。飽きっぽくて、何しても長く続かないしさ」 やりたいことが特に見つからないから、とりあえず大学に行く。そのために、与えられた勉学をただ頑張る。 そのことに、なぜか一種の後ろめたさを感じるのだった。 例えば、三月には美大に合格したいという明確な目標がある。 また、来海にも美容師になる夢があり、親と対立しながらも前へ進もうとしている。 それなのに自分は———— 「じゃあ逆に、なんでとりあえずでも大学に行こうと思うの。まわりがみんな行くから?」 「親に、恩返ししたいから」 ——意表を突かれたのか、彼の眉尻が微かに上がった。 「ちゃんと就職して一人前になりたいとは思ってる。でも本当にそれだけなんだよね。ほかに何もない。大学進学だって別に親が望んだことじゃないし、むしろ俺にやりたいことがあれば、たぶん応援してくれるんだろうけど——ないから逆に申し訳ないっていうか……」 一気に喋ってしまうと、ふいに目が合った。 彼のまぶたが優しげに盛り上がっている。 「……なに?」 「歩は親思いの優しい子なんだね。恩返ししたいっていう気持ちだって立派な目標だと思うよ。親御さんとの絆がしっかり結ばれてる証拠」 神楽坂はなぜか嬉しそうだ。 「まあ、絆は——強いほうかな……」 つぶやきながら、ふと窓の外を見た。 しかし、神楽坂の姿が窓ガラスに反射していて、ついそちらにピントを合わせてしまう。 逃げ場がなくなって、仕方なしに前を向いた。
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