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「タロとするときってさ、三月が男役なの?」
「俺が女役だと思うか? 逆に」
歩は苦笑しながら首を横に振った。
以前、タロを遠目で一度だけ見たことがあるが、さっぱりとした顔立ちで線が細く、小綺麗な印象だった。
背丈や体つきは、自分とそう変わらないだろう。
「じゃあさ、たぶん……恭ちゃんも男役のほうってことだよね?」
「お前さー、付き合いたての俺に聞く? そういう無神経なこと」
三月はうんざりしたような顔でこちらを見た。
「神楽坂とタロがどうしてたかは知らねーよ。バニラっつうの? ケツつかってないとか、そういう可能性もあんじゃねーの」
三月は言い切ったあと、なにかを思い出しながら、ため息をついた。
そして、
「いや、ないか……」
独り言のような落胆をこぼした。
「なんか、ごめんね」
「ほんとだよ」
尻を軽く足蹴りされた。
その後もしばらく小突き合いながら校舎を出ると、門のあたりがなにやら騒々しい。
女子生徒が塊となって門扉にこびりついている。歓声のようなものが聞こえ、それを制止するように様子を伺う、教員の姿も見えた。
「なにあれ、どうしたの」
三月は自転車置き場を素通りして、先に歩いて行ってしまった。
彼は首を亀のように左右に動かしながらしばし様子を眺めた後、小走りでこちらに戻ってきた。
「なんだったの?」
「全然見えないけど、誰かいるっぽい」
さして興味はなかったが、歩もその塊に目をやってみる。
すると、人だかりの隙間から、光の粒のようなものが漏れてきて、その既視感にはっとした。
いや、まさか。
半信半疑のまま近づいてみると、その光はだんだんと濃くなってきて、歩は無意識に歩幅を小さくしていた。そのとき、自分よりも頭ひとつ分背の高い三月が、先に声を上げた。
「あー、なんか知ってる。あれ、なんかのモデル」
その時、隙間から発光源が見えた。
彼はすでにこちらに気づいていて、錆色の目は揺らぐことなく一点に注がれていた。
「歩!」
彼は女子生徒をかき分けるようにして、手振りながらこちらに向かってきた。
「なんでいるの?」
「お金返しにきた」
一斉に視線が集まるのを感じて耐えられなくなり、彼の腕を取って歩き出した。
一度だけ三月のほうを振り返って目配せするが、彼は状況がよく飲み込めていないのか、口をぽかんと開けながら、機械仕掛けのようなぎこちない瞬きを数回しただけだった。
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