激と静の波間に 01

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激と静の波間に 01

神楽坂と思わぬ形で再開したのは、クリスマスが過ぎたばかりのころだった。 「歩ー!」 カウンターからにょろりとのびてきた小さなふたつの手を捉えてまもなく、その後方に彼の影が揺れた。 髪が伸びた周は、以前会った時よりも落ち着いた印象を受けた。 「周! 元気だった?」 小さな手の甲を指で弾いてみたが、照れているのか、それっきり口をつぐんでしまった。 接客カウンターにしがみつきながらもじもじしている彼に耐えかねたのか、神楽坂が背後から言った。 「突然ごめんね。夜ごはんを外で食べようって話してたら、周が歩のとこで食べるって聞かないもんだから」 「ううん……」 神楽坂はにっこりしているものの、いつもの陽気さがなかった。 距離があるように感じるのは、周がいるからだろうか、それとも————— 「俺、歩が終わるまで待ってる!」 鉄砲水のような、唐突な勢いをもって周が言った。 「周、歩はお仕事中なの。まだ終わらないんだよ。9時までにうちに戻らないと、ママも心配するから」 たしなめるが、周は唇を尖らせたまま、黙り込んでいる。 歩は背後の時計を一瞥して、今が夜の7時であることを確認すると、ふたたび前を向いた。 「今日は俺、8時上がりだよ」 主に平日、今日のように店が暇なときは、店長が早上がりしたい人を募ることがある。本来ならば10時上がりなのだが、なんとなくやる気が起きずに、自ら申し出たのだった。 途端、周の顔が綻ぶ。神楽坂は一瞬、戸惑ったような顔を見せたが、すぐに笑顔を繕った。 「周、よかったね。じゃあ邪魔しないで待ってようね」 垣間見えた神楽坂の本心にひっそりと傷つきながら、歩はレジを指で弾いた。
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