798人が本棚に入れています
本棚に追加
車で数時間過ごしたあの夜、帰宅してすぐに神楽坂からのメッセージを受け取った。
それは歩を長時間拘束したことへの詫びと、礼を告げるものだった。
返すべきか迷ったが、結局、返信はしなかった。
着信があったのは、さらにその3日後だ。
風呂に入っていて出られなかったことに内心ほっとしつつ、やはりかけ直すことはしなかった。
神楽坂からすれば、決定打を打ったつもりなどないのだろう。いきなり音信不通になり、困惑しているかもしれない。
しかし、あの夜——友達だと告げられた瞬間、歩の中ではたしかに終わったのだった。
彼と会わなくなって、2週間が経過していた。
あの夜以来、歩の中から、希望とともに意欲や気力、あらゆるものが抜け落ちてしまったようだ。
年末年始さえも、冬らしいモノトーンのまま、色づくことなく過ぎていき、年が明けて学校が始まると——その白黒のなかに、受験という2文字が食い込むようにして存在感を放ち、日常に入り込んできた。
——ファストフード店でのアルバイトも2月末で辞めることになっている。彼と自分とをつなぐものは、本当にこれでなくなるのだ。
このまま会わずにいれば、忘れられるのだろうか。
神楽坂の後ろ姿のシルエットが記憶のなかから突然浮かび上がり、ゆっくりと見切れていった。
「じゃあ玄にすんの?」
三月がまた、からかうような声を出した。
「玄とはそんなんじゃないよ。映画行って以来、会ってないし」
「じゃあどんなだよ。ちゅーまでしたくせに」
それは自分が聞きたい、と喉元まで迫り上がってきたが、慌てて飲み込んだ。
彼とも神楽坂の車内でやりとりをして以来、連絡を取っていない。
しかし、それはそれで気楽だった。
「アユにしては長かったよね」
「なにがだよ」
「おっさんだよ。いつもは好きになってから別れるまで1カ月ぐらいでさ、ジェットコースターみたいな感じだったじゃん。でもおっさんはもう、どんくらい? 軽く3カ月は好きだったんじゃない?」
「おっさん言うなって」
じゃあなんて呼べばいいんだよ!
三月の声が、かすかに聞こえてくる。
歩は頬杖をつき、黒板の隅の消し残しを見ながら、ぼんやりと思い返してみた。
——まったく彼のいう通りだった。
これまで、大抵の場合はすぐに成就したし、脈がなければすっぱりと諦められていた。
今までのものと神楽坂とのものを、一括りにはできない。
なにもかも——種がまるで違うのだ。
最初のコメントを投稿しよう!