TOKYO NIGHT 01

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車で数時間過ごしたあの夜、帰宅してすぐに神楽坂からのメッセージを受け取った。 それは歩を長時間拘束したことへの詫びと、礼を告げるものだった。 返すべきか迷ったが、結局、返信はしなかった。 着信があったのは、さらにその3日後だ。 風呂に入っていて出られなかったことに内心ほっとしつつ、やはりかけ直すことはしなかった。 神楽坂からすれば、決定打を打ったつもりなどないのだろう。いきなり音信不通になり、困惑しているかもしれない。 しかし、あの夜——友達だと告げられた瞬間、歩の中ではたしかに終わったのだった。 彼と会わなくなって、2週間が経過していた。 あの夜以来、歩の中から、希望とともに意欲や気力、あらゆるものが抜け落ちてしまったようだ。 年末年始さえも、冬らしいモノトーンのまま、色づくことなく過ぎていき、年が明けて学校が始まると——その白黒のなかに、受験という2文字が食い込むようにして存在感を放ち、日常に入り込んできた。 ——ファストフード店でのアルバイトも2月末で辞めることになっている。彼と自分とをつなぐものは、本当にこれでなくなるのだ。 このまま会わずにいれば、忘れられるのだろうか。 神楽坂の後ろ姿のシルエットが記憶のなかから突然浮かび上がり、ゆっくりと見切れていった。 「じゃあ玄にすんの?」 三月がまた、からかうような声を出した。 「玄とはそんなんじゃないよ。映画行って以来、会ってないし」 「じゃあどんなだよ。ちゅーまでしたくせに」 それは自分が聞きたい、と喉元まで迫り上がってきたが、慌てて飲み込んだ。 彼とも神楽坂の車内でやりとりをして以来、連絡を取っていない。 しかし、それはそれで気楽だった。 「アユにしては長かったよね」 「なにがだよ」 「おっさんだよ。いつもは好きになってから別れるまで1カ月ぐらいでさ、ジェットコースターみたいな感じだったじゃん。でもおっさんはもう、どんくらい? 軽く3カ月は好きだったんじゃない?」 「おっさん言うなって」 じゃあなんて呼べばいいんだよ! 三月の声が、かすかに聞こえてくる。 歩は頬杖をつき、黒板の隅の消し残しを見ながら、ぼんやりと思い返してみた。 ——まったく彼のいう通りだった。 これまで、大抵の場合はすぐに成就したし、脈がなければすっぱりと諦められていた。 今までのものと神楽坂とのものを、一括りにはできない。 なにもかも——種がまるで違うのだ。
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