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TOKYO NIGHT 02
風が強い夜だった。
冷たい空気がひたひたと頬を叩き、歩を煽る一方で、まばらに散らばる星は、まるで他人事のように平穏な光を放ちながらこちらを見下ろしている。
歩は手のひらを両手に当ててひりつく頬を温めようとしたが、指もすでに冷たく、感覚がなかった。
——自転車で来たほうがよかったかな。
しかし、こう風が冷たいと、ハンドルを握った際に指先がかじかむのが憂鬱だ。
指先を温めるためにポケットに手を入れると、スマートフォンが震えているのが、鈍った感覚でもわかった。
「あゆむ今暇? 出てこれたりする?」
玄からだった。
年が明けて初めて寄越したメッセージにも関わらず、新年の挨拶すらないのが、やはり彼らしい。
歩も改まった挨拶はせず、今バイトが終わったことだけを打って返信した。
なんでも、六本木で友人と飲んでいるという。なぜだかわからないが、その友人が歩に会いたがっていて聞かないのだそうだ。
本音をいうと、気乗りしなかった。今から行けば確実に朝帰りになるだろうし、話の流れからしていかにも面倒くさそうだ。玄もそれほど気乗りはしないらしく、無理しなくていいと言った。
普段ならやんわりと断っていたであろうこの誘いになんとなく応じる気になったのは、ここ最近、自身につきまとう劣等感のせいだろう。
周りから遅れをとっているという妙な焦りを、新たな刺激を与えることによって除去してしまいたかった。
それに、玄の新たな一面を見てみたいという、単純な興味本位もある。
他人といるときの玄を、歩はまだ見たことがななった。
返事を打って送信すると、元来た道を引き返して駅に向かった。
歩いている最中にも、玄は「家は大丈夫なのか」とか「お金出すからタクシーで来なよ」とか「制服のまま来ちゃダメだよ」云々、いちいちメッセージを送ってきた。
友人と一緒にいるのに、自分とばかりやりとりしていていいのだろうか。
思いながらも、かじかむ手を握ったり閉じたりして血を巡らせながら、簡単に返事をした。
「まだ電車あるから電車で行くよ」
着信画面に切り替わったのは、そう打っている最中のことだった。
表示されている名前を目で追ったのは、すでに通話ボタンを押してしまった後で——息を飲んだ。
名前を先に確認できていたら、出なかっただろう。
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