TOKYO NIGHT 03

3/5
前へ
/131ページ
次へ
ドアが閉まってしまうと、歩はいよいよ心細くなった。 「今日もお偉いさんに営業かよ。ほんとよくやるよなぁ……」 「え?」 その妙な言い回しが気になって大和を見ると、彼は惚けたように笑った。 「あれー、歩君、グラス空じゃん」 ぼんやりしているとグラスを取られ、注ぎ足されてしまった。 ラベルを手で覆われてしまい、詳しくはわからなかったが、なにかしらのアルコールリキュールを炭酸水で割ったものらしい。 「俺、お酒はちょっと……」 言ってみても彼は聞こえていないとばかりにマドラーを回している。 「大丈夫、大丈夫。ただの水だから」 ね? 差し出してきた時の彼の顔は笑顔ではあったが、高圧的だった。 受け取ったまま、しばらく口につけないでいたが、大和は見過ごしてはくれなかった。 ニコニコしながら頬杖をつき、こちらが飲むのを待っている。 歩は覚悟を決めて一気に煽った。 甘くもなく、アルコールの濃い液体は、飲み下すのが非常に辛い。喉を通った瞬間、粘膜が腫れたように熱くなった。 「おー、いけるね。もっと飲めそう」 ようやく空にしたそばから、またグラスを奪われる。 「あ、もうほんとに……」 「大丈夫大丈夫ー」 ふたたび差し出されたグラスを手にした時、指先になかなか力が入らず、落としてしまいそうになった。 目が回る。 それでも、ほぼ強要されるようにグラスの中のものを飲み干した。 ふわふわと意識が舞うなかでテーブルに空のグラスを置くと、大和はようやく満足したようで、それ以上継ぎ足すことはしなかった。 安堵したのもつかの間、今度はまじまじと歩の顔を見て、ふたたび肩に手を回してきた。 「玄とは、やっぱり好みが似てるんだよなぁ……」 まぶたの力までもが抜け、半分ほどに狭まった視界の中で、大和の顔が近づいてきた。 「ちょっ……」 抱き寄せられ、慌てて大和の唇に手のひらを押し当てた。 制したつもりだったが、大和は面白がるように手のひらを舐めてきた。 そのまま、指の付け根を舌先で突かれ、やがて指一本一本をなぞり上げるようにして愛撫され、歩はとうとう手を離した。
/131ページ

最初のコメントを投稿しよう!

798人が本棚に入れています
本棚に追加