798人が本棚に入れています
本棚に追加
ドアが閉まってしまうと、歩はいよいよ心細くなった。
「今日もお偉いさんに営業かよ。ほんとよくやるよなぁ……」
「え?」
その妙な言い回しが気になって大和を見ると、彼は惚けたように笑った。
「あれー、歩君、グラス空じゃん」
ぼんやりしているとグラスを取られ、注ぎ足されてしまった。
ラベルを手で覆われてしまい、詳しくはわからなかったが、なにかしらのアルコールリキュールを炭酸水で割ったものらしい。
「俺、お酒はちょっと……」
言ってみても彼は聞こえていないとばかりにマドラーを回している。
「大丈夫、大丈夫。ただの水だから」
ね?
差し出してきた時の彼の顔は笑顔ではあったが、高圧的だった。
受け取ったまま、しばらく口につけないでいたが、大和は見過ごしてはくれなかった。
ニコニコしながら頬杖をつき、こちらが飲むのを待っている。
歩は覚悟を決めて一気に煽った。
甘くもなく、アルコールの濃い液体は、飲み下すのが非常に辛い。喉を通った瞬間、粘膜が腫れたように熱くなった。
「おー、いけるね。もっと飲めそう」
ようやく空にしたそばから、またグラスを奪われる。
「あ、もうほんとに……」
「大丈夫大丈夫ー」
ふたたび差し出されたグラスを手にした時、指先になかなか力が入らず、落としてしまいそうになった。
目が回る。
それでも、ほぼ強要されるようにグラスの中のものを飲み干した。
ふわふわと意識が舞うなかでテーブルに空のグラスを置くと、大和はようやく満足したようで、それ以上継ぎ足すことはしなかった。
安堵したのもつかの間、今度はまじまじと歩の顔を見て、ふたたび肩に手を回してきた。
「玄とは、やっぱり好みが似てるんだよなぁ……」
まぶたの力までもが抜け、半分ほどに狭まった視界の中で、大和の顔が近づいてきた。
「ちょっ……」
抱き寄せられ、慌てて大和の唇に手のひらを押し当てた。
制したつもりだったが、大和は面白がるように手のひらを舐めてきた。
そのまま、指の付け根を舌先で突かれ、やがて指一本一本をなぞり上げるようにして愛撫され、歩はとうとう手を離した。
最初のコメントを投稿しよう!