TOKYO NIGHT 03

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「んっ……」 その隙に唇を奪われてしまう。 アルコールと香水の混ざり合った匂いに吐き気がしたが、覆いかぶさられてしまい、太刀打ちができなかった。 「歩君、ほんと可愛いよね」 耳打ちされ、寒気が走る。 恐怖のあまり固まっていると、大和は自身のパンツのポケットをまさぐり、なにかを出した。 「緊張してるね。お酒だけじゃリラックスできなかったかな」 錠剤のようなものを自分の口に放り込み、噛み砕くと、また近づいてきた。 口腔内に舌が侵入してきて、なんともいえない苦味が広がる。 吐き出したかったが、絶えずキスを繰り返されるうちに苦しくなり、とうとう飲み込んでしまった。 「いまの、なに……?」 「大丈夫。半分こしたからね」 ニットをたくし上げられ、冷たい指が胸や腹を這う。 身動ぎするたびに大和の熱い息が耳元にかかって、恐怖と混乱に包まれた。 「玄さー、エッチうまいでしょ」 「知らないです……」 大和はにやついたまましばらくこちらを見下ろしていたが、やがてまた耳打ちをしてきた。 「あいつさ、プロデューサーとかお偉いさんと寝まくってるよ」 「え?」 「本庄(ほんじょう)卓馬(たくま)の『プール』って小説知ってる? それが映画化するらしいんだけどね。あいつ、それのキャストに内定してんのよ」 本のタイトルは歩も知っていた。たしか昨年に本屋大賞かなにかをとった恋愛小説だ。 ミーハーな母親がすぐに買ってきていたから、家にも本があるはずだ。 「池和田(いけわだ)(おさむ)が監督らしいからね。どうしても出たかったんじゃない? その一本の映画のために何人と寝たんだか……。野心ってこわいよね。『ONe』の専属になる前は、本人もこんなんなるって思ってなかっただろーなぁ……」 池和田修——その名を、最近まで歩は知らなかった。 先日、喫茶店で彼の作品について、玄から熱く語られるまでは。 「あれ、ショック受けちゃった? ごめんね」 「そんな……」 「じゃー、やなことは忘れちゃおっか」 熱い息が、首筋をなぞる。 彼から受けるそれらは変わらず嫌悪感しかないのに、体の芯が疼き、火照ってくるのを感じた。 「やめてください」 「えー、いいね。もっと拒否って。燃えるから……」 この男の場合、抵抗することが逆効果らしい。 足をばたつかせてみるものの、腕を押さえつけられてしまった。 そのまま、敏感な部分に膝を押し当てられ、不覚にも身体が反応してしまう。 「嫌だ」 下着の中にまで指が伸びてきたとき、歩は手首を掴んで抵抗したが、軽く扱かれただけで指先に力が入らなくなった。 まるで、心と体が切り離されてしまったかのようだった。 「ほんとに、やめてください……」 視界が霞む。 朦朧とする意識のなかで、神楽坂の顔がふと浮かんだ。 あの時、彼の忠告を聞いておけばよかった。 なにが前に進ませてほしいだ。 この状況で、笑わせる————
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