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学校から家に帰る途中、淡い薄緑色のくしゃくしゃに丸められていた紙屑が、道の端に落ちていた。
まだそれほど汚れていないところを見ると、捨てられてすぐらしい。
俺はしばらくそれを眺めてから、溜息をついて拾い上げた。そのままポケットに突っ込む。
放置していればこれからしばらく登下校の間、雨に濡れてどろどろに溶け、アスファルトに広がった後、塵となって風に飛ばされるまで付き合わなければならない。毎日あのとき拾って捨てておけば良かったと思いながら見続けることになると思うと、このまま家に持ち帰って捨てた方がマシだった。
家に帰ったらそのまま宿題をして、洗濯するから洗濯物を出せという父親の声を聞いて、慌ててブレザーのポケットに手を突っ込んだらそこにまだ入っていた。
ハンカチを階下に持っていった後、ゴミ箱を上から眺めると、その紙屑は全体的に薄汚れてくたびれてはいるが、どうも封書のようだった。
捨てたものをそうっと引っ張り出す。封書だが宛名はなく、封もシールだけで留めてあって簡単なものだ。手渡しを前提にしたものらしい。
何が書かれているのだろう。
宛名や差出人がわかれば返せるかもしれない。俺はそうっとシールを外した。中にはまた薄緑色で、若葉のような模様の透かしがある手紙が入っていた。
こんなものを丸めるなんて。
二枚に重ねられていた便箋をそうっと開くと、一行目に、自分の学校の生徒会長の名前があった。
「ずっと前から好きでした」
そして、そう書き出されていた。
ラブレターか。
最後までは目を通さず、慌てて元のように二つに折り、封筒に収めると封をした。
誰かが、生徒会長のことが好きなのだ。
それはまあ、可笑しなことではない。かの生徒会長は成績優秀で強豪バスケ部のキャプテンで眉目秀麗だ。付き合っている人がいるという噂だったが、相手がいようと一人や二人、こうしてラブレターをしたためたい人はいるだろう。
それにしてもどういう人物が、こんな品の良い便せんに向かっていたのだろう。
一瞬見ただけだが、字は小さめだったから内気な人だろうか。
シンプルながらうっすらと模様の入った物を選ぶのだから、普段から小物にも気を使うような人だろう。髪を染めていなさそうだし、清潔感がありそうだ。
どことなく好感を抱く。誰だろう、この手紙を書いた人は。
封筒をようよう観察してみれば、きつく四つ折りにしたあと、手のひらで握りしめたような跡があった。
もし生徒会長が受け取った後、この手紙をこんな扱いをしたのなら、彼を軽蔑しそうだ。
だけどもし、別の会長を好きな人が見つけたのなら、強力なライバルの出現だと警戒して、この扱いをしたのなら当然のように思える。
もし、渡せない手紙だったのなら。
その気持ちはよくわかる。
俺もずっと好きな人がいて、何も言えないままでいた。長い間側にいて片想いをしていたが、相手はこちらを眼中にも入れていないのがわかっていた。
だからわざわざ勇気を出すようなこともない。少し離れて見守るだけで、いずれ誰かにさらわれていくのを待っているだけだ。
渡せない気持ちはよくわかる。
「いつかは届けばいいな」
俺はそっと皺を広げ、また制服のポケットにしまった。
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