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指定席に向かうとその隣の席に祐介はいた。
「おじさん、こんにちは」
先に声をかけたのは翔太だった。そうだろう。翔太が三歳の頃にいなくなった父親など顔も覚えていないだろう。唯は少しだけ切なくなるが、翔太が口火を切ったならば、あとは二人に任せよう。
「こんにちは。どこまで行くんだい?」
「青森のおばあちゃんの家。おじさんは?」
「俺も青森だよ。奇遇だね」
「へぇ。おじさんも青森に家があるの?」
「いやいや。旅行だよ。青森にはよく行くんだ」
「僕も青森にはよく行ってるよ!はやぶさ大好きだし!」
離婚をする前、翔太と祐介ははやぶさに乗り、よく青森まで行っていた。時にはそこに唯がいないこともあった。
はやぶさに乗りたい!と幼い翔太が駄々をこねると祐介は苦笑しながらもその時間を作ったのだ。
そんな祐介を知っているからか唯の母は祐介を悪くは言わなかった。それは離婚してからも変わらなかった。
何故祐介が離婚を言い出したのか、その理由は唯にも分からない。何一つ説明せずに祐介は離婚を押し切った。
仲が悪かった訳でも経済的な問題があった訳でも子育てに確執があった訳でもない。
だからこそ唯はどこかで再婚もあるはずだと信じていた。
だが、翔太が三年生になる夏まで連絡はなかった。
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