7人が本棚に入れています
本棚に追加
「僕、小さいときから何回もはやぶさ乗ってるんだ!」
満面の笑みの翔太を見て祐介の顔もほころぶ。
「はやぶさのどんなとこ好きなの?」
「速いとこ!あとね、僕のお父さんがよく僕をはやぶさに乗せてくれたんだって!僕が乗りたいって言ったら、お仕事休んでまで乗せてくれたんだって!」
祐介の顔に切なさが過ぎったのを唯は見逃さなかったが余計な口出しはしない。今は祐介と翔太の時間だ。
「お父さんのこと……好き?」
「ん〜。分かんない。僕が小さいときに離婚したから、あんまり記憶ないもの」
「そっか」
祐介と翔太の視線は自然と窓の外に向かう。
「新幹線からの風景いいよね」
「僕も大好き!見てて飽きない!」
はやぶさは福島を抜けて宮城へと入る。
「青森以外は行ったことあるの?」
「岩手と宮城ならあるよ。あんまり記憶ないけど。おじさんは?」
「俺もおんなじだよ。お揃いだな」
岩手は祐介の実家があり、宮城には仙台七夕が見たいと結婚前に唯と一緒に行った場所。
唯は懐かしく感じている。祐介はちゃんと覚えている。
「僕ちょっとトイレ行ってくる。おじさん、待っててね」
翔太はそう言って車両から消えていく。
「ねぇ」
唯の言葉に祐介は唯を見つめる。
「どうして離婚なんかしたの?翔太のこと、可愛いんでしょ?父親だって名乗れなくていいの?」
祐介は一瞬驚いた顔を見せる。
「お義母さんから聞いてないのか?」
「何を?」
「そうか……。俺はね余命を宣告されたんだよ。だから別れた」
「……そうだとしたら私が妻として失格ってこと?余命宣告されたなら一緒に頑張るのが夫婦じゃないの?」
「君は産休を終えて働き出したばっかりだったじゃないか。俺のことで君や翔太がやりたいこともできないのはイヤだったんだ。介護が必要になったら間違いなく俺にかかりっきりになる。俺のためにこれからを浪費させるのはイヤだったんだ」
唯はため息を吐く。こういう人だからこそ唯は祐介を選んだ。こういう人だからこそ祐介は離婚を選択した。文句の言えるはずもない。
「馬鹿ね」
「うん。馬鹿だな」
「病気は良くなったの?」
「治ってはいない。だが良くはなってる」
沈黙。それを破るかのように翔太が帰ってくる。
「おじさん、逃げなかったね?」
「ここは指定席だよ。どうやって逃げるんだよ?」
祐介は翔太と戯れるのが余程楽しいのか無邪気に笑う。
「そろそろ昼時だ。駅弁買おうか?」
「おじさんが買ってくれるの?やった!」
最初のコメントを投稿しよう!