7人が本棚に入れています
本棚に追加
はやぶさの中の父親と子の時間は過ぎて、父子は青森駅のホームに一緒に降り立った。
「おじさん、また会える?」
「ああきっと会えるよ」
祐介はそう言い残して改札を抜ける。
「翔太、あのおじさんのこと、好き?」
「好きだよ!」
唯の問いに翔太は真っ直ぐに答える。例え父親だと名乗れなくても祐介にとって有意義な時間だったのだろう。
青森駅からバスを乗り継いで二人は唯の実家に辿り着く。
翔太は祖母の顔を見るなり、あくびをして眠ってしまった。
「疲れたんだね」
祖母に翔太のタオルケットをかけてから、唯に向かう。祐介と翔太が会うと聞いていたからか、そこを気にしたのだろう。
「上手くいったかい」
「うん。怖いくらいに。あんなに懐くなんて思わなかった」
祖母はクスクスと笑う。
「この家に翔太の宝箱あるの知ってるね?」
唯は首を傾げながらも頷く。
祖母は立ち上がり、一時、部屋を出て翔太の宝箱を持ってくる。
「見てみな」
言われるままに唯は宝箱を開くとそこに一枚の写真。
「あんたは祐介さんの写真を全部隠したが、翔太も隠してたんだよ」
その写真は幼い翔太と祐介がはやぶさをバックに撮った写真。
「翔太は祐介さんの顔を知っているんだよ」
「じゃあなんで、お父さんって呼ばなかったの?」
「あんたたちが隠し事にしたからだよ」
唯の目からポツリと涙が落ちた。
「言えば良かったのかな?」
「いいや。それは翔太に任せな。そして祐介さんにな。これを知ったのも翔太に内緒だよ」
祖母は写真をまた宝箱に入れて、それをどこかに持っていく。
父親だと知っていたから翔太はあんなに懐いたのだ。
祐介は余命を気にして父だと名乗らないのだ。
なぜ、皆、優しく隠し事をするのだろう。
唯は眠る翔太の顔を見る。幸せそうな顔で寝息を立てている。
また、はやぶさの時間を作らなきゃ。唯はそう決めた。
了
最初のコメントを投稿しよう!