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駅を出た女は、住宅街に足を踏み入れた。そして、真新しい二階建ての白いアパートの敷地内に入って行った。女は一階の部屋の前で立ち止まった。
女は肩に掛けているバッグから鍵を取り出している。鍵を開けた女は、部屋の中に消えた。
男はその様子を女に気付かれる事なく、間近で見ていた。そして男は、女が入った部屋の前に移動すると、ドア横に設置されているインターホンを鳴らした。
「…宅配便です」
物陰に隠れる事なく、堂々と男を観察し続ける茜の耳に、その声が届いた。
配達員のはずがない。茜は目を見開き、笑顔を浮かべた。
直ぐにドアが開いた。
男は開かれたドアを右手でがっしりと掴んだ。左手はポケットの中だ。その左手がポケットから抜き取られた。ナイフが握られている。男は女の首にナイフの刃を当てると、呟いた。
「声を出したら殺す」
女の顔が一気に青ざめた。女は小刻みに首を何度も縦に振った。そして男と女が部屋に消えて行った。
「…凄い」
茜は子犬のように愛くるしい笑顔を浮かべ、体をくねらせた。
茜はアパートの裏手に周り、女の部屋の窓に近付いた。しかし曇り硝子の為、部屋の様子は伺えない。茜は眉をへの字に曲げると、窓に手を掛けた。鍵は掛かっていなかった。
「やった」
小さな喜びの声を上げた茜は、自ら作った窓の隙間から、部屋の様子を窺った。
「んっ!んぅー!」
女は嘆きの悲鳴を上げるが、塞がれた男の手により、それは呻き声程度にしか聞こえない。
「…声を出すな…殺すぞ」
男は女の耳元で囁いた。
女の声が止まった。そして女は、顔をしわくちゃにしながら、何度も頷いた。
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