芽生えた感情

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  片桐は、美玲の言葉の意味を把握できずに困惑している様子だ。 「美玲は生まれ付き感情を知らなかったんです…でも」  片桐にそう告げた竜二は涙を拭い、美玲のお腹に優しく手をあてた。 「…美玲、それは悲しいから体が重くなったんだよ」 「悲しむ?私は感情を持たずに産まれたのだぞ」  そう言った美玲は、絶え間なく涙を流し続けている。 「泣いてるじゃないか…それは悲しいから泣いてるんだよ」 「泣いてる?…目から水分が出てきているな。これが涙なのか?」 「そうだよ…赤ちゃんが美玲に感情を残していってくれたんだよ…きっと」 「胎児はそんな事が出来るのか。学習した。悲しみという感情の感覚も学習したぞ」  美玲は感情を芽生えさせたばかり。まだ喜びを知らない美玲は、無表情で答えた。 「…園山さん、今はゆっくり休んでくださいね」  片桐は笑顔を浮かべ、看護士を連れ病室を出て行った。 「平山竜二。お前を食べていれば胎児は死ななかったのか?」  涙を流しながら、美玲は尋ねた。 「えっ?…美玲、何言ってるんだ?」  突拍子もない不気味な質問に、竜二は心底驚いている。 「カマキリのメスは交尾し終えると、産卵に向け、栄養源としてオスを食べるのだ。しかし、私は人間だ。平山竜二を食べた方がよいのか、調べていたのだ」 「美玲…人間は人間を食べちゃだめなんだよ。怖いこと言わないでくれよ」  美玲が冗談を言わない事を竜二は知っている。 「人間は人間を食べてはいけないのか。学習した」 「…美玲、善悪の区別は付くよな?」  今までそんな事を考えもしなかった竜二は、不安になり尋ねた。
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