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それから数日間、竜二は美玲にやってはいけない事を教え続けた。
感性が違い過ぎる。竜二は美玲に対し、そんな思いに駆られた。
しかし、美玲は愛する者。それ故、全てを受け入れようとしている。
そんな夜、竜二は都内にあるバーで酒を飲んでいた。
隣には部下の和田暁美が、竜二を見詰め座っている。
「…相談って何だい?」
ウィスキーのロックを飲み干し、竜二は口を開いた。
「…ごめんなさい。相談っていうのは嘘なんです。社長とただ飲みたかったんです」
暁美は申し訳なさそうに、頭を下げた。
「…飲みたかった?…二人きりで?」
竜二は暁美の気持ちに前から気付いていた。そしてその気持ちにはっきりと答えを出す為に、そんな質問をした。
「…はい」
暁美は泣きそうな顔を隠す為に、俯いている。
「…和田さん。君も知ってると思うけど、俺には結婚の約束をした彼女がいるんだ…嬉しいけど、君の気持ちには答えられない」
竜二は暁美には視線を向けず、目の前の酒瓶が並ぶ棚を見詰めた。
「…分かってます…今日で忘れますから、朝まで付き合って下さい」
その悲しそうな声を聞き、竜二は視線を暁美に向けた。
顔を上げた暁美の頬には、涙が伝っている。
「…和田さん」
暁美の涙を見て、竜二はこみ上げてくるものがあった。
「…思い出にしたいんです…駄目ですか?」
暁美は涙を流しながら、潤んだ瞳で竜二を見詰めた。
「…分かった今日だけだ…朝まで付き合うよ」
竜二はその姿を見て、戸惑いながらも答えた。
二人はその後、会話は少ないものの、深夜まで酒を飲み明かした。
そして朝になり、竜二は目を覚ました。
「…起きましたか?」
目を開けた竜二の目の前に、笑顔で微笑み掛ける暁美が立っている。
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