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「本当!?…美玲が嘘付く筈ないわよね…良かったね、美玲」
里美が泣いているのは、電話からでも分かる。
「あぁ、喜ばしい事だ。それを私は学習済みだ。もう報告する事はないから切るぞ。私は今、食事中なのだ」
「そうね、たまには電話してきなさいよ。母さん美玲の声が聞きたいんだから」
「たまには電話する。うむ、了解した。ではまた、たまの時にな」
美玲はそう言うと、受話器を置いた。
「…美玲、お義母さんに報告してなかったんだな…ごめんよ、俺が連絡してれば良かったんだけど、俺、嫌われてるから」
テーブルに戻ってきた美玲に向かい、竜二はばつの悪い顔をした。
「うむ。しかし、次何かあった時には母に連絡をする…ん?何かあった時とは、具体的に何なのだ?平山竜二、分かるか?」
美玲は自分の発言に首を捻った。
「…美玲が病院に行くような怪我をしたり、例えば大学を辞めるとか…普段の生活と違った事が起きた時に、連絡すればいいんじゃないかな」
竜二は首を捻りながらも、考えて答えた。
「大学を辞める事はないが、普段の生活と違う事が起きた時に連絡だな。学習した。平山竜二、感謝だ」
美玲は規則正しく頭を下げた。
同時刻。茜は自宅の最寄り駅から二駅離れた繁華街にいた。
「今日は誰にしようかな?」
小さな声で呟くと、茜は口角を上げた。
そんな茜の視界が一人の男を捉えた。
「…あの人、面白そう」
サングラスを掛け、フードを被った男を見詰め、茜は更に口角を上げた。
茜は無遠慮に男を凝視している。しかし、男は見られている事に気付いていない様子だ。
フードを被り、サングラスで顔が見えない為、男の年齢ははっきりとは分からないが、老人や中年と呼ばれる年ではないだろう。
男が動き出した。茜はフードの男から少し離れ、後をつけた。
茜は人間を観察する事が好きだ。興味を引かれた人間を尾行し、観察する趣味を持っている。
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