道具集め

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「…山下か?」  伊織は画面に表示している名を口にした。 「あん?お前、誰だ?」  電話の相手が金田ではないと気付いた山下の声が、敵意を込めたものになった。 「誰でもいい。お前は刺青をしているか?」 「誰だって聞いてるだろうが!答えろやボケ!」  スマホを振動させる程の山下のがなる声に、伊織の美しい顔が歪んだ。 「質問の意味も分からないのか?お前は馬鹿なのか?」 「お前、殺してやるよ!どこにいるか言えこらぁ!」 「ボアールってスーパーの近くだ」 「お前、そこ動くなよ!今から行くからな!」  声が聞こえなくなった。山下が通話を終了させたようだ。スマホからは、通話終了を知らせる機械的なメロディーが流れている。 「挑発に乗るような奴か…たかが知れてるな」  伊織はそう言うと、スマホを助手席に投げ捨てた。  電話を終えてから十分程経った。伊織の居るボアールというスーパーの駐車場に、一際派手な車が停まった。紫色の艶やかなボディーは、見ていて心安らぐものではない。  車から男が出てきた。紫色のジャージを着ている男の手には、木製のバットが握られている。  伊織は一目見てそれが、山下だと分かった。  山下はバットを肩に担ぐと、周りを睨み付けるように悪態をついている。電話の相手を探しているのだろう。  山下はジャージのポケットに荒々しく手を突っ込むと、背面にど派手な竜がペイントされた紫色のスマホを取り出した。  その数秒後、山下を見ている伊織の耳に、着信を知らせるメロディーが届いた。着信音は、投げ捨てた助手席のスマホから聴こえている。  伊織はスマホに触れる事なく車から降りた。その足は、真っ直ぐに山下に向かっている。  自分に真っ直ぐに向かって来る伊織に気付いた山下は、血走った鋭い目を向けた。
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