第一章 魔族として生きる僕

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第二話 僕の前世は、人間だった。 電化製品があり、今思えばすごく技術が発達していた、そんな世界。 丁度高校生だった僕は普通に暮らしていたのだ。 何の変哲もない日常を送っていたが、ある出来事をきっかけに急転する。 中学校からの親友がいたのだ。 名前は、『呉寺麻(くれじま)唯識(ゆい)』。 その日も、唯識と共に下校していた。 この一人称を、別に嫌がりもせずに受け入れてくれたのも、唯識が初めてだったと思う。 2人で何気ない話をしていて、唯識が駅まで競争しようと言ってきた。 私もそれに乗り、2人で競争を始めた。 それが、いけなかったのだ。 間違った判断に、取り返しのつかない過ちになってしまった。 勉強の成績は学年トップ。 運動神経もそれなりによかったが、何せ体力がなく、運動神経No. 1にはやはり勝てなかった。 どんどん離れていき、体力切れになりそうなのが分かったのだろう、途中で止まって待っててくれていた。 待たせてしまったと思って、しかし少し楽しいと思っていた私は、思わず笑顔で手を振り返したが、その笑顔はすぐ恐怖の顔に変わった。 手を振り返してくれている唯識の後ろから、車が突っ込んできていたのだから。 それに気付いた周りの人は悲鳴を上げていた。 異変に気付いた唯識はその人達の視線の先を見て固まる。 それもそうだろう。自分に向かって車が突っ込んできているのだ。止まる気配もなく。 しかし、その時の僕は周りなんかどうでもよかった。 カバンを放り出し、唯識のもとへ走った。 体力なんか、とっくに切れているはずだった。 恐怖で体がすくむと思っていた。 しかし、僕はただ、無我夢中で唯識のもとへ走った。 ただ、唯識を助けなければと思った。 そして、唯識に車が激突するその瞬間。 僕は、唯識を突き飛ばした。 慌てて目を開けて、その一瞬で状況を理解したのだろう。 泣きながら、「紅麗亜(くれあ)!」と叫ばれた。 僕はその時、人は誰か大切な人を守るためなら、限界も超えられると知った。 唯識を守れた安心から、「よかった…」というと同時に、僕の体は車に吹き飛ばされ、そのまま意識を失った。 その後目を覚ますと、誰かに抱かれていたような感じがした。 まだよく目は見えないことで、自分は生きていろのだろうか、と思った。 しかしその時、不穏な言葉を聞き取った。 「この子は厄災をもたらす。闇属性に目覚め、其方(そなた)らの運命を狂わせるであろう。人で闇属性に目覚めるのはとても珍しいことだ。今すぐ縁を切りなされ。さすれば其方らには、安寧が訪れるであろう。」と。 縁を切るとはどういうことだろうか。 しかも、あの声を聞いたことはない。 闇属性とは何だ。異世界にでも転生したか? この世界は。 どこだ? その後は、どうやら寝ている間に森に捨てられたらしい。確か10歳ごろだったと思う。 どうしようかと考えあぐねていたところにカリュが現れ、捨てられている子を見捨てることはできないと拾われ、ギガルと共に3人で暮らし始めた。 そこで自分は、あの時死んでしまい、異世界に転生したのだと理解した。 既に軍団長の中でもトップの実力を誇る者しかなれない第一軍団長になっていたギガルの、その剣技に魅了された。 カリュは魔法が得意な魔族で、第二軍団長も務めているが、ギガルと兄弟でギガルの手伝いをするために同じ拠点に住んでいたらしかった。 午前はギガルに剣技を習い、午後はカリュに魔法を習うという毎日を送っていた。 ある日、カリュに連れられてやってきたのは、森の中にあるちょっとした広場だった。 「お前の魔法の属性を見る。」 それまで魔法を使う一歩手前のところをやっていた僕は、この日が少し楽しみだった。 人間のため、どんな魔法が使えるようになるかはわからないため、すべての魔法を試していくことにした。 まずは炎や水といった、基本的なものから試していく。 どれも当てはまらなかったため、次に行く。 今度は回復魔法だ。 これには二種類ある。 一つは、ちょっとした怪我などの軽症なものなら治せるが、重傷なものや病気、毒などは治せないI型の回復魔法。 もう一つは、軽症なものから重傷なものまで全て治すことができるII型の回復魔法だった。 I型持ちは、魔族にも稀に生まれることがあるらしいが、軽いものしか治せないため、あまりいい印象を与えない魔法だった。 II型は人間にしか発現しなく、人間でも確率は低く珍しい。もしこの適性があれば、相当重宝されることになる。 手にゆっくりと魔力を込めていく。 違いは色の濃さらしい。色が濃いほど強い。 回復魔法の色である桃色と緑色が混ざったような色、全てを包み込むようなふわふわとした、そんなものを思い浮かべながら。 しばらくして目を開けると、そこには、とても色が濃い魔力の塊が浮いていた。 「!?回復魔法の…II型…?!」 カリュも驚いていたが、僕が1番驚いていた。 小さな頃、聞いてしまった、あの言葉。 『闇属性に目覚める』はずなのに… なぜ、回復魔法に目覚めているのだろう。 事前に幼い頃に聞いたことをカリュに話した時、カリュはこう言っていた。 「闇属性はとても扱いづらい。完璧に操れるようになれば、それはそれは重宝されるが、出来なきゃ捨てられる。そんな属性だ。出ないのが1番なんだがな…」 その時に、属性が二種類出ることもあると言われていたので、もしやと思ってしまった。 その後もいろいろな属性を試したが、結局適性はなく、結局、闇属性のものが残ってしまった。 もしかしたら、出ないかもしれない。 そんな期待も込めて、最後の魔力込めを始める。 その時、想像する前に頭の中に、一つの映像が流れてきた。 それは、小学校の時の自分だった。 唯識に出会う前。 親に”完璧“を求められ 学校では”優等生“を演じる。 友人なんてとても作れず そのうちみんなから距離をとられ そのうち感情が欠如していった。 まさしくこの時期の私は”闇“と言ってもいいだろう。 なんとなく結果を予想しながら目を開けると、そこにはやはり黒い塊が浮いていた。 しかし不思議だったのは、カリュが目を丸くしていたことだった。 「カリュ?どうした?」 声をかけると、我に返ったカリュは、「お前…なんともないのか…?」と聞いてきた。 特に身体への異変は感じられない。知ってたという気分ではあるけども。 「あのな…初めて闇属性を扱って暴走してないっていうのがどんだけヤバイかわかってっか?」 …ん?まって。これ初めてで暴走するようなもんなの?! そっちの方が驚きなんですけど! 「…大抵最初は制御が効かなくなって誰彼構わず攻撃しようとするんだ。だけど…」 そう言って未だ形を保ったまま浮いている闇を一瞥いちべつすると、再度口を開いた。 「お前はきちんと闇を制御できてる。II型の回復魔法も使えて、さらには膨大な魔力を持ってるお前は、魔族の中で相当重要な奴になってくるってことだ。」 マジですか。 僕の立ち位置意外とすごいとこかもしれない。 それからは、ひたすら剣技と魔法の上達の練習の毎日だった。 14歳になった時、剣技と魔法を同時に使う練習を始めることになった。 回復魔法は直接施す方が早いので、必然的に闇を使うことになる。 まずはギガルとカリュの見本を見る。 ギガルの属性は”水“、カリュの属性は”雷“だ。 流石は第一軍団長と第二軍団長なだけあって、知識がない僕でも、これは文句の言いようがないものなんだろうとわかった。 そして、見本を見たら、次は僕だ。 前世で想像していたのは、”剣に魔法を纏わせる“方法。 実は、ちょっと異世界に憧れてたりもしていた。 闇は、どんな形にもできる。 鎧にも、武器にも。 どちらもという選択肢もある。 僕は、どれになるかな… 剣を持って、魔法を発動させる。 すると闇は、僕を包み込んできた。 剣にも纏わせ、黒く染まる。 するとギガルが、「俺と模擬戦をする。魔法と剣技、今まで教えたもんを、全部ぶつけてみろ!手加減するなよ?」なんて言ってきた。 まって、14歳が第一軍団長と戦って勝てると思いますか。 てか生きていられると思いますか。 しかも女だぞ?!これでも!手加減なんかできるか! 言いたいことはたくさんあったが、言ったって仕方ないと思い、いつものように剣を構える。 もちろん、ギガルも剣を構えるが、一応魔法は無しらしい。よかった。 カリュが右手を上げる。 これが下された時、戦いが始まる。 「よーい…」 腰を低くして、走り出す準備をする。 あれ…いつもより何だか体が軽い様な… そして、カリュが右手を振り下ろした。 「始めっ!」 それと同時に僕は飛び出した。 そこで、予想外の出来事が起きた。 なんと、走り出した…と思ったら、既にギガルの元まで来ていたのだ。 『闇属性の能力はたくさんある。複数出る場合もあるから、全部試さなきゃいけねぇ。』 以前言われたこの言葉。 なる程、僕の闇の一つは”速度上昇“と言ったところか。 そのまま振りかぶっていた剣を振り下ろすが、ギリギリ受け止められる。 とりあえず後ろに下がり、ギガルの様子を見る。 驚いた様だが、まだまだいける…というより、完全にやる気スイッチが入ってしまった様だ。 これは…失敗すれば死ぬな。短い人生だったなぁ… そうこうしているうちに、今度はギガルがこちらに突っ込んできた。 しかしなぜだろう。 普段練習している時は目で追うのがやっとで、体が反応できなかったのに。 今は、とても遅く見える。 苦もなくギガルの剣を受け止めると、流石にこれには驚いた様で、目を見開いたまま固まっている。 ”動体視力“も各段に上がっているらしい。 これは…”身体能力を上げる“ものかな? 身体を守るためにこんな能力になった…と思えばいっか。 最初に『手加減は無用』と言われているので、そのまま剣をギガルに向かって振り下ろす。 ハッとしたギガルはそこから跳びずさるが、闇で覆われた部分が伸びてギガルの肩を切り裂く。 「伸びんのは反則だろ?!」 うん。僕もそう思う。 しかし、笑みを浮かべているギガルにはまだ余裕があると判断し、そのまま懐に飛び込む。 ああ。これはきっと激しい戦いになる。 そんな覚悟をして剣を横に振り抜いた。 ⎯意外にも決着はすぐについてしまった。 僕の圧勝だったのだ。 あの時横に振り抜いた剣がギガルの腹部を思いっきり切り裂いた。 流石にそのまま動き続ければ出血多量で死んでしまうと判断したので、闇魔法を解除し、回復魔法で傷を治した。 死に至る傷を負い、さらにはそれを治癒されてしまっては負けを認めざるを得ない、とギガルは悔しそうに言って僕の勝利になった。 いろいろやってみた結果、闇魔法単体で使うと、遠距離で操りながら使えることもわかった。 遠距離、近距離共に攻撃が可能らしい。 それからは、追尾式の闇魔法を覚えるための練習、剣から魔法を飛ばして攻撃する魔法を教えてもらった。 かなり高位に位置する魔法だったので、覚えるのに数ヶ月かかった。 第三軍団長に任命されたのは17歳になった時だった。 回復魔法、闇魔法に目覚めた魔族は、高確率で捨てられる。 回復魔法はI型しか目覚めないので、基本的に薬草やポーションでも治せるのだ。 闇魔法は扱いが難しく、自分の身に危険が及ぶ可能性がある。 そうやって捨てられた子供たちも中にはいるため、最初はギガル達が育て、属性調べで闇魔法、回復魔法に目覚めた魔族を、僕が引き取って教える。 そのためにはそれなりの立場が必要だったのだが、まさか第三軍団長に任命されるとは思わなかった。 しかし、戦争に出ることはほとんど無い。 戦力的には惜しい様だが、戦争によって傷付いた魔族を後ろの安全なところで治療する、という役割を担っている。 今僕が育てている魔族の子供達が大きくなって、回復魔法をうまく使える様になったら、僕は戦場に出ることになっている。 I型の回復魔法でも、II型にかなり近い回復力を持たせる魔法の開発に成功したのだ。 勿論、作ったのは僕だ。カリュに作り方を教わっていたが、実際に作るとなると結構大変だった。それはもう、徹夜を何回したんだかわからないくらいに。 ただ、どうしても簡単な術式にできなかったので、小さい頃から教えても、大人になってようやく覚えられるぐらいの難易度になってしまった。 でも、戦場に出ないと知ってカリュやギガルは安心している様だった。 から、それがトラウマになっているかもしれないと思ったらしい。 でも僕にとっての親はギガルとカリュであり、兄弟の様な魔族の子供達もいる。 別に未練もなければ、恨みもない。トラウマなんてもってのほかだ。 まず記憶がほとんど無いのも一つだろう。 それに、たまにギガルやカリュのもとに行き、闇属性や回復魔法に目覚めた子供達を育てる毎日は、とても楽しい。 今の僕には、ギガル達がかけがえのない家族だ。
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