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無神経な発表
こうして幼くして母を亡くした彼はずっと傷心に浸っていた。
しかしながら社会はとても冷たいもので、彼を傷心に浸らせてくれる猶予すら与えてくれなかった。
母の葬儀も全て終え、次の日、朝礼の時に担任の先生が
「先日、山田剛君のお母さんが亡くなりました」
とみんなの前で発表した。
(みんな。山田君はつらいと思うけど、友達として励ましてやってくれ)
担任の先生なりに気を使ったのだろうけど余計なお世話だった。
(前でわざわざ発表しなくてもいいじゃないか)
そうも思った。
案の定クラスのみんなはザワザワし始めた。子供ってのは、正直だけど、すごく残酷でもある。
休み時間になるとみんな彼のところに来て
「山田、お母さんいなくなっちまったんだね」
とか
「辛くないか」
なんて無神経に言って来た。
みんな悪気はないんだと思う。誰も経験したことのない親の死と言うものをいち早く経験した彼が珍しくもあったし、心底彼を心配して励ますつもりではあったのだろう。
担任の無神経な発表依頼、しばらくみんなの話題は彼の母のことばっかりだった。
彼はもともと穏やかな性格だったが、、みんなにいろいろ言われて苛立ちさえ覚え始めた。
来る日も、来る日も、みんな彼のところに来ては
「お母さんいなくて寂くない」
「料理とかどうしてるの」
なんて、無神経な質問ばかり。
中には本当に心配してくれる友達もいたんだろうけど、毎日毎日無神経な質問にうんざりしていた。
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