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「一体どうしたんだ、剛。突然訪ねてきたりして」
相変わらず優しい祖父の声に、彼は少しだけ胸が熱くなった。
二人は食卓を囲み、祖母が淹れてくれたお茶を手に取りながら、ゆっくり話を始めた。
「実は…おじいちゃん、おばあちゃんも知ってる通り、五年前にお父さんが再婚し、新しいお母さんが来たんだ」
彼は安堵のためか、涙で崩れそうな目頭を必死に押さえた。
その瞬間、祖父の優しい表情が、少し曇ったように見えた。
「なかなか新しいお母さんと上手くやっていけなくて…新しいお母さんも、全然俺を受け入れてくれなくて、毎日毎日ケンカばかりで、辛くて、辛くて…どうしようもなくて、柏のおじいちゃんおばあちゃんのところに来てしまったんだ」
彼はかつてふるさと川崎であんちゃんやゆうちゃんに話した内容を、今度はふるさと柏で話し始めた。
「剛、そうか。確か清(彼の父の名前)が再婚してから俺も一度だけ会ったことあるんけど、あのお母さん、確かにキツそうな人だな」
祖父の表情が一瞬曇ったのは、継母の厳しい人柄を察し、彼のことが心配に思えたからだろうか、確かなことは分からないが、ただその言葉からは彼の思いに深く同感していることだけは伝わってきた。
それより驚いたのは祖父のその会話の内容だ。
「えっ、何だって…おじいちゃんもお父さんから再婚すること聞かされてなかったんだ」
彼は驚いた表情でそう言った。
「聞かされるもなにも、清からは再婚2日後くらいに電話がきて「俺再婚しましたから」ってポツリと一言あっただけだからな」
(あの|親父(今後はあえてそう呼ばせてもらうが)息子ならまだしも、自分の親にさえ再婚の報告をせずに済ませてしまうなんて。いくらなんでも無茶苦茶だ、流石に酷すぎるだろ)
心の中でそう吐き捨てながら、彼は祖母
の淹れてくれた温かいお茶を静かに口に運んだ。
苦みと渋みが喉をすべり落ちていくたび、呆れと失望がじんわり胸の奥に広がっていった。
そんな会話の合間に、祖母がゆっくり割って入ってきた。
「剛、トースターありがとう。あんた、学生の身でそんなにお金も無いだろうに…一丁前に気を遣っちゃって」
そう言いながら、祖母は祖父と彼の間に座り、包まれていたトースターの包装を開けた。
ただ、そんな感謝の言葉を口にしながらも、祖母の表情は、彼にはまだ固く感じられた。

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