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「あいたたた……。もう!なんなのよ!!誰!?あたしの足を引っ張ったのは!!」
美和は打った腰を擦りながら、辺りを見回した。すると、暗がりから「よお!」と声をかけられた。
「あんたはっ!こんなところに隠れていたのね!!」
クレバスの底に落ち、目の前に現れたのはコンラッドだった。
「ただ、隠れているだけじゃないさ」
コンラッドは傷めた腕を布で固定しながら言った。出血が多すぎて、再生力が落ちているのだろう。身体が元に戻るまでの時間稼ぎといったところか。
「そんなに傷付いて……本当、だっさ!」
「フン!俺にそんな事を言ってる場合ではないんじゃないのか?お前、一人でここから這い上がれるのか?」
美和は上空を見つめた。地上まで、10メートルはありそうだ。
「結鬼の女って飢え死にすることはないのか?」
「ちょっと……あたしをここに置き去りにする気?」
「ああ、そのつもりで引っ張ったからな」
「戻してよ」
「では、取り引きだ」
「なにをよ?」
「俺たちの殺害を取り消せ」
「嫌よ」
「では、お前はずっとここで過ごすことだな。ちなみにこの父島にほとんど人が入ることはない。無人島だからな」
美和は黙り込んだ。
「いいわよ!そんなの!電話すれば、いいじゃない?!」
美和はスマホを取り出してみたものの圏外で全く反応がなかった。
「こんなところ、電波が届くわけねぇだろ」
馬鹿にしくさった口振りで言われ、美和は腹が立った。
「うるさいわね!もう!絶対にあんた達を消してやる!!」
「勝手にほざいてろ!」
コンラッドが立ち上がり、こっちに向かってきた。異様な感覚がして、美和は思わず後退る。
「な、なによ!こっちに来ないでよ!!」
「脱げよ……」
そう言ってコンラッドは美和の肩に触れた。
「急にその気になったってわけ?」
所詮は男。女を前にしてやることはやろうということなのか。美和は舌舐りをするように、ねっとりとコンラッドの手を取った。
「なあに?あたしとしたいの?」
そう訊くとコンラッドはにっこりと笑った。
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