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 ルイは初めて出会う強敵に焦りを感じていた。 『どいつもこいつも大したことない奴』  肉食獣が他愛もない鼠をいたぶるような感覚でしか、相手に対して感じた事がないのだ。敵になどなりえない。そう、これまで出会ってきた同種は皆、狩りの対象でしかなかったのだ。ところが、ザンを相手にして、初めて恐怖というものを感じた。 「おのれ!!」  ルイの中の恐怖は、やがて焦りを産み始めた。すると、攻撃がだんだんと単調になり、相手に突き入る隙を与えた。ルイは益々焦った。周囲のものがまるで見えなくなり、ザンにだけ集中する。そして、この集中が、ルイを益々ピンチに貶めた。  連続で手刀を打ち続けるザンの攻撃を避けるため、地上に近い位置で、何度も後退を繰り返していた時だった。  次第にザンが勝利を意味するような笑みを口許に綻ばせた。  ルイはその表情が許せなかった。怒りに任せて、ザンに向かって一歩踏み出した時だった。ザンの心臓を狙って右手を振り上げた時だった。脇から突如として伸びてくる刃に、胴体を切りつけられた。その瞬間、ルイは失態を理解した。  どうしてこんな小僧が近付いているのに気付かなかったのか?!  ルイは木陰に潜んでいた四鵬によって、切り付けられてしまった。  ザンはこいつに気付いていたのだろうか?  ルイの胴体は、辛うじて皮一枚で繋がっていた。だが、ルイは切られ始めのうち、やられても気に止めることはなかった。高位結鬼の再生力をもってしたら、即座に繋がる筈だからだ。しかし、傷口と傷口をくっ付けても何故か再生されず、血はどんどんとその身体から流れていった。
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