73

2/27
前へ
/438ページ
次へ
 ルイを見失ったザンは、地上に降り、辺りを見回していた。  暫く岩場を歩いた後、一本の枯れ木に凭れて頭を搔く。  一旦、キリルの元へ戻った方がいいかと思ったが、やはり面倒事は早めに片付けておきたい。ザンは、枯れ木から離れ、急勾配の岩場を注意深く降りて行った。すると、大きな岩の影に、見たことのある男が立っていた。  スティーブだ。  ザンは目を細め、不機嫌な様子でスティーブに近付く。彼はキリルを拉致し、ひどい目に遇わせたのだ。 「お前……よくも俺の前に姿を現せたな……」  ザンは確実に戦闘態勢に入った。キリルの害となる輩は早く始末しておきたい。 「ちょっと待てよ。俺は今、お前とどうこうするつもりはないんだ」 「そんな事、どうでもいい。キリルを拉致したお礼をしなくてはならない」  スティーブはため息を吐いた。 「俺のことは後回しにしようぜ。それより、この下で、面白い事をおっ始めるつもりなんだけど、お前もどうだい?」 「この下?」  ザンは眉をひそめた。そして、スティーブが指差す岩場の割れ目を覗いた。 「よく見えないが……」 「マジかよ?!目が悪いのか?」  ザンは頷いた。 「そうか、じゃあ、説明するけど、今、この下には、お前が追い詰めた黒髪の奴と女がお楽しみの所だ。そこへ、俺の相棒が向かっている」 「ふーん。で、どうしろと?」  スティーブはニヤリと笑った。 「このまま奴らを生き埋めにしてやろうと思ってる」  スティーブの青い瞳が狂気に光った。
/438ページ

最初のコメントを投稿しよう!

144人が本棚に入れています
本棚に追加