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ルイを見失ったザンは、地上に降り、辺りを見回していた。
暫く岩場を歩いた後、一本の枯れ木に凭れて頭を搔く。
一旦、キリルの元へ戻った方がいいかと思ったが、やはり面倒事は早めに片付けておきたい。ザンは、枯れ木から離れ、急勾配の岩場を注意深く降りて行った。すると、大きな岩の影に、見たことのある男が立っていた。
スティーブだ。
ザンは目を細め、不機嫌な様子でスティーブに近付く。彼はキリルを拉致し、ひどい目に遇わせたのだ。
「お前……よくも俺の前に姿を現せたな……」
ザンは確実に戦闘態勢に入った。キリルの害となる輩は早く始末しておきたい。
「ちょっと待てよ。俺は今、お前とどうこうするつもりはないんだ」
「そんな事、どうでもいい。キリルを拉致したお礼をしなくてはならない」
スティーブはため息を吐いた。
「俺のことは後回しにしようぜ。それより、この下で、面白い事をおっ始めるつもりなんだけど、お前もどうだい?」
「この下?」
ザンは眉をひそめた。そして、スティーブが指差す岩場の割れ目を覗いた。
「よく見えないが……」
「マジかよ?!目が悪いのか?」
ザンは頷いた。
「そうか、じゃあ、説明するけど、今、この下には、お前が追い詰めた黒髪の奴と女がお楽しみの所だ。そこへ、俺の相棒が向かっている」
「ふーん。で、どうしろと?」
スティーブはニヤリと笑った。
「このまま奴らを生き埋めにしてやろうと思ってる」
スティーブの青い瞳が狂気に光った。
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