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 周囲に血飛沫が舞うが、ザンは気にした様子もなく、落ち着いて一歩下がった。元から視力はあまり良い方ではない。地中に潜り込んだ時点で、視力にハンディキャップがあるのは承知済みだ。  ゆっくりと敵の気配を追いながら、目の再生を待つ。だが、もちろん相手はそんな猶予を与えてくれる筈はなかった。  右から壁が砕かれるような轟音がして、そちらに気を取られた瞬間、後頭部に衝撃を受けた。思わず前のめりになって倒れると、背中を貫くような痛みが走る。血泡を吐きながら、肋骨と肺がやられたのを感じる。  ルイはそのままザンの背中の上に乗り、抑え込んだ。 「いい感じの血だな、お前……。お前を吸収出来たら、更に力を得られ、俺こそが最強になれる気がするよ」  ルイが牙を露にした。このままザンを吸収する気だ。カッ!と口を大きく開き、ザンの喉元に食い付こうとした。が、牙とザンの間に、たおやかな白い手が入り込んだ。  美和の手だ。  ルイは一度、美和の手に牙を突きたて、慌てて放した。 「邪魔をするな、美和!!」 「やーよ!あたしはこの男を気に入ったって、言ったでしょ!あんたになんか吸収させないわよ!」 「うるせぇ!!」  ルイは美和の頬を思いっきり叩いた。勢いよく美和の体が吹っ飛ぶ。 「くそっ!邪魔しやがって!」  そう言ってルイが仕切り直しをしようとした頃には、ザンの胸や目は再生していた。逆に下から首を掴まれ、絞め上げられる。 「……ふっ……くっ」  と、苦しげに悶え始めたのはルイの方だった。
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