明瞭な夢を暮らす

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明瞭な夢を暮らす

この現から醒めたらば。──インクブス・スクブス/京極夏彦 私のはぜんぶ夢でした。夢のように他人事で、それでも間違いなく私の人生なのです。 非常に個人的なことを書いてしまおうと思う。 誰も興味はないだろうし、別に役立ちもしないだろう。でも私は文章として残して、顔も知らない誰かにひっそりと見てもらいたかった。そういう欲がある。 家族のことと、私の性質、夢中になったこと。愛すべき人たち。 書きやすい部分から、好きに書いていこうと思う。 (うつつ)は夢。夢は現。私の今生きるこれは夢なのかもしれないと、度々思うことがある。生きる実感が何だかはっきりせず、薄い膜が張っている世界に暮らしているように感じたのは一体幾つのときからだったか。自分の年齢をきちんと自分の年齢として扱えたのはいつまでだったか。 寂しいような、諦めのような、諦めていっそ心地良いような。私が暮らすのは音量音質明瞭度が曖昧な繭の中。水の中。あるいはその両方のような。ぼんやりと苦しかったような、寂しかったような。 けれど振り返ってみればその歩みは決して全部が苦しさや寂しさ絶望だけではなくてところどころ途切れずプツンと目立つ煌めきがあって、それが淡水パールのネックレスのように愛らしく連なるので、結局その全てがいとしい。いとおしい。私の人生が結局は愛おしい。 色んな人がいる。だから私だけが特殊とも、可哀想とも思わない。それでも私にとって一番特別なのはやはり私の人生だ。この夢のような、あぶくのような人生でも書き残して振り返りたいと思うくらいには特別なのだ。 “人間”になろうと努力していたいじらしいわたしへ。 踏み出すことをずっと恐れていた臆病なわたしへ。 けれど正しさと優しさを愛す、強いわたしへ。 戻って来ないすべての過去の**ちゃんへ。 落ち着いて見渡してみれば、きっと世界は
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