第0話 編入

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「もう一度一緒に聞きたかったな…」 視界が悪い。パチパチと燃える音と黒白の煙が視界を遮り、声が辛うじて聞こえる。煙が目を攻撃する。力を振り絞って声のする方へ近づく。体に力が入らない。それでも…体を動かして近づく。 「君と…もう一回。」 意識が遠のいていく。体中が痛い。まだ、止まるわけには、いかないのに、体がいうことをきかない。それでも………それでも、力を振り絞って手を伸ばす。 「あなたとの大切な思い出だから。」 視界が暗くなってくる。意識が…。体から力が抜けていく。必死で抗い、手を伸ばしてあの人の手をつかもうとする。最後に伸ばした手は、届かなかった。 不意に目が覚める。見慣れた天井、美空色のカーテンがひらひらと揺れる。空芽千覇はベッドから体を起こす。横には中学の頃のアルバムが置かれている。周りには段ボールがいくつか。 千覇「そっか、片付けの途中で寝落ちしたのか。」 明日から新学期が始まる。高校二年になるから心機一転という事で部屋の片づけをしていた。いろんな思い出のある物が出てきたからだろう。 千覇「あの日の夢か…忘れることなんてないのに。」 千覇は机の上にある写真を見る。自分を含めて幼馴染の2人が写っている。自分にとってそれを忘れることは死を意味しているようなもの。ある人曰く、『それは呪い』と言われた。でも、千覇にとっては罪なのだ。忘れちゃいけない、最後の約束だから。大切な人との最後の約束だから。 千覇「…さて、続き始めるか。」 千覇は立ち上がり、アルバムを段ボールの中にしまい、片づけの続きを始める。
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